紫式部『源氏物語 三十五帖 若菜下』あらすじ紹介。妻の浮気を知る源氏。相手は可愛がっていた息子の親友だった
公開日:2024/12/10
古典文学の名著『源氏物語』を読んだことはありますか。教科書に掲載されていたり、作者・紫式部の人生がドラマ化されたりして、興味がある方も多いかもしれません。どんな物語なのかを知ることができるよう、1章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第35章『若菜下(わかなのげ)』をご紹介します。
『源氏物語 若菜下』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
『若菜下』は上巻に引き続き、源氏に降嫁した女三の宮を巡る物語です。身分の高い女三の宮は正妻として丁重に扱われてはいますが、源氏の愛情はやはり紫の上へ向いています。皮肉なことに、見た目も振る舞いも幼い女三の宮が紫の上のすばらしさを際立たせているようです。ですが女三の宮は、幼さゆえにおっとりと構えあまり気にする様子はありません。その不意を突いて女三の宮を奪いに来たのが、源氏の息子である夕霧の親友・柏木です。しかし、柏木の恋文が源氏に見つかり、ふたりの不義はあっけなく露呈してしまいます。不倫の証拠をわざわざ残す柏木も、他の男からの手紙を片付け忘れる女三の宮も、色恋のプロである源氏からするとあまりに未熟です。幼稚なふたりの不倫の後始末を源氏がどのようにつけるのか、今後の展開が気になります。
これまでのあらすじ
朱雀院の娘・女三の宮の裳着が終わり、朱雀院は出家を望んでいたが、女三の宮には後ろ盾となる夫がいないことが気掛かりであった。思いあぐねた結果、権勢盛んな源氏に女三の宮を託すことにした。皇女の降嫁となれば、紫の上は正妻の座を譲ることになるが、紫の上は不安な心中を隠し冷静に事態を受け入れた。年が明け、女三の宮を迎え入れた源氏だが、新妻のあまりに幼い様子に失望し、何もかも完璧な紫の上への愛情が増していった。源氏の40歳のお祝いが盛大に催され、翌年3月に明石の女御は春宮の子を出産した。一方、女三の宮に以前から好意を寄せていた柏木は、六条院を訪れた際に女三の宮の姿を垣間見て、より一層思いを募らせていた。
『源氏物語 若菜下』の主な登場人物
光源氏:41~47歳。40歳の時、当時13、14歳の女三の宮と結婚した。
紫の上:33~39歳。身分の高い女三の宮に正妻の座を奪われるが源氏からの愛情は深い。
女三の宮:15~22歳。源氏の正妻となったが、身も心も幼い。
柏木:25~32歳。太政大臣(以前の内大臣)の息子。夕霧の親友。
『源氏物語 若菜下』のあらすじ
女三の宮の姿を垣間見てから、柏木はその姿が忘れられずにいた。叶わぬ思いを募らせ、せめてもの慰めに身代わりとして女三の宮の姿を垣間見るきっかけとなった猫を無理を言って春宮から譲り受けて明け暮れに可愛がった。
兵部卿宮は、髭黒と前妻の娘である真木柱を妻としたが、あまり乗り気でない結婚であり、物思いに沈みがちであった。
4年の月日が経ち、冷泉帝が在位18年で退位し、春宮(朱雀院の子)が即位した。明石の女御の皇子が次の春宮に立った。太政大臣は辞任し、夕霧は大納言に、髭黒・柏木も順調に昇進していった。女三の宮を迎え入れてからより一層源氏は紫の上を大切にし、夫婦仲は睦まじかったが、源氏の愛にすがる以外は生きる術がないと将来を不安に思う紫の上は源氏に出家をしたいと願い出た。しかし源氏はこの願いを退け、出家を許さなかった。
朱雀院は出家後も女三の宮のことを気に掛けていた。もう一度娘に会いたいという朱雀院の願いをかなえるべく、源氏は朱雀院50歳の祝賀の宴を催す準備を始めた。管弦の遊びにも造詣の深い朱雀院が、「琴の名手である源氏に嫁いでいるのだから上達しているだろう女三の宮の演奏を聞いてみたい」と漏らしているというのを耳にして、源氏自ら女三の宮に琴を教え込んだ。その甲斐あって、翌年の正月に開かれた試楽(しがく・リハーサル)では、一緒に演奏した紫の上や明石の女御、明石の君と交じっても、遜色ない程度には上達をしているようだった。翌日、紫の上は自分の今までの人生について源氏と語り合い、改めて出家を希望するが、源氏はその願いを再び取り下げた。
それから間もなく、紫の上が発病した。発熱や胸の発作にひどく苦しみ食事もままならず衰弱していった。容態は回復しないまま2カ月が過ぎ、朱雀院のお祝いも延期された。献身的に看病を続ける源氏は、試しに二条院に場所を移して療養させることにし、紫の上が不在になった六条院は火を消したような静けさになった。源氏と共に身重の明石の女御も看病をした。女御が生んだ子を可愛がることに生き甲斐を見出していた紫の上は、成長を見届けられそうにないことを嘆いていた。源氏の前に六条御息所が物の怪になって現れ、一時は危篤状態になったが、源氏の加持祈祷の甲斐あって一命を取り留めた。
紫の上の闘病に掛かりきりになり、女三の宮への源氏の訪問は途絶えがちになっていた。この隙を狙って、女三の宮を恋慕する柏木が侍女に取次ぎを頼んでいた。柏木は、女三の宮の姉・落葉の宮と結婚していたが今でも女三の宮を思い続け、ある晩柏木に根負けした侍女の手引きで、女三の宮と強引に契りを交わした。ふたりは罪の意識に苛まれるが、密通は続いた。
やがて、女三の宮に妊娠の兆候が現れた。女三の宮を見舞った源氏は、自分の訪問が途絶えがちだった寂しさから辛そうにしているのだと考え、女三の宮をいじらしく思い久しぶりに一晩共にした。翌朝、源氏は何気なく目に留まった手紙を開いて、筆跡や内容から柏木と女三の宮との密通を知る。ふたりの裏切りに憤りを感じるが、自身の藤壺との不義を思い返し、因果応報の理を思い知る。源氏に不義密通が露呈したことを知り、ふたりは茫然とし、柏木は体調を崩していった。
12月、六条院で宴が催され、源氏に招かれた柏木は生きた心地がしない。源氏は柏木に酒を強く勧め、酔ったふりをしながらわざわざ名指しをしてきつい冗談を言った。その日以降、柏木は食事ものどを通らなくなった。