紫式部『源氏物語 三十六帖 柏木』あらすじ紹介。源氏のお咎めを恐れる豆腐メンタルな柏木。源氏の妻を寝取った男の末路とは…
公開日:2024/12/11
古典文学の名著『源氏物語』を読んだことはありますか。教科書に掲載されていたり、作者・紫式部の人生がドラマ化されたりして、興味がある方も多いかもしれません。どんな物語なのかを知ることができるよう、1章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第36章『柏木(かしわぎ)』をご紹介します。
『源氏物語 柏木』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
『柏木』は、『若菜』巻で不義密通が源氏に露呈した柏木と女三の宮のその後を描いています。この出来事で源氏は、継母である藤壺と密通し子をなした暗い過去を思い出し、自らの過失の因果応報を思い知ります。ただし、源氏や藤壺は絶対に周囲に悟られまいと心して平然と繕っていましたが、柏木と女三の宮は、手落ちだらけの不倫劇を引き起こした上にその後のひ弱さが目立ちます。継母、しかも帝の后に手を出した源氏の圧倒的なメンタルの強さとの対比が面白いですね。
これまでのあらすじ
女三の宮が源氏の正妻の座について4年の月日が経ったが、源氏の寵愛は引き続き紫の上に向いていた。冷泉帝が譲位すると朱雀院の皇子が即位し、明石の女御が生んだ子が春宮にたった。これからの人生は下るばかりと嘆き出家を望んでいた紫の上が突然発病し、一時期は危篤状態に陥る。紫の上を二条院に移し看病をする源氏が不在になった隙を突いて、以前から女三の宮を恋慕していた柏木が忍び込み強引に契りを交わした。罪の意識に苛まれながらも関係は続き、やがて女三の宮は懐妊した。しかし、女三の宮の体調不良を見舞う源氏が、柏木の恋文を発見しふたりの不義密通が露呈する。表立って咎められることはなかったが、源氏の全てを見抜いたような視線を恐れた柏木は病床に伏せた。
『源氏物語 柏木』の主な登場人物
光源氏:48歳。40歳の時、当時13、14歳の女三の宮と結婚した。
紫の上:40歳。身分の高い女三の宮に正妻の座を奪われるが源氏からの愛情は深い。
女三の宮:22〜23歳。源氏の正妻となったが、身も心も幼い。
柏木:32〜33歳。太政大臣(以前の内大臣)の息子。夕霧の親友。
夕霧:27歳。源氏の息子。柏木の妹である雲居雁と結婚した。
『源氏物語 柏木』のあらすじ
柏木の病状が良くならないまま年が明けた。死が近いことを感じ、女三の宮に最後の手紙を送るが、時折不機嫌になる源氏が怖くて女三の宮は返事を書きたがらない。小侍従にせかされて渋々書いた手紙を見て、柏木は涙を流した。
やがて女三の宮は薫と呼ばれる男の子を出産した。柏木との不義の子である事実を知る源氏は、心から薫の誕生を喜ぶことができない。源氏のよそよそしい態度に耐えられず体調を崩していた女三の宮は出家を望んだ。源氏は出家を引き留めはしたが、内心ではこのまま許すことができずにお互い苦しむくらいならそれもよいのかもしれないとも思った。しかし、女三の宮の出家への決意は固く、見舞いに訪れた父・朱雀院にすがって出家を果たした。事情を知らない朱雀院は、出家後も女三の宮を見捨てることがないように源氏に託し、源氏もあまりに若い女三の宮の出家を不憫に思って涙した。その夜、再び六条御息所の物の怪が現れ、紫の上の命を取りそこなったので女三の宮に取り憑いたと笑った。
女三の宮が出家したと聞き、柏木の容態はさらに悪化し、もはや回復の見込みはなくなった。死を前にして、見舞いに訪れた夕霧に、源氏に対し畏れ多く思うことがあり、それによって心身を病んでしまったと打ち明けた。柏木は、夕霧に源氏の怒りを解くことや妻の落葉の宮のことを託して亡くなった。
3月に、薫の生後50日のお祝いが催された。出家後は、女三の宮のもとを訪れることも増え、かえって可愛らしく思うこともあったが、源氏はあの一件を忘れることはできない。薫を抱き上げると、品のある可愛らしさの中に柏木の面影を感じ、亡き人への哀悼の念と非難が浮かび、女三の宮の心中を思うとやるせなく思った。
柏木の遺言を受け、落葉の宮を度々見舞ううち、夕霧は落葉の宮に興味を持ち始めていた。優美な雰囲気の柏木に比べ男らしく華がある夕霧の評判はよかったが、落葉の宮は夫を失った悲しみに暮れるばかりであった。
才知や人望もあり、風流事にも精通していた柏木を失った痛手は大きく、宮中の人々は柏木の死を悼み、源氏も複雑な思いを抱えていた。薫は成長し、秋になると這いまわるようになっていた。