金持ちは驕らない(後編)/絶望ライン工 独身獄中記㉝

暮らし

公開日:2024/12/11

絶望ライン工 独身獄中記

国語が5だとか、数学が2だとか体育が1だとか数字が並ぶ。
それを見て教師からの評価はこんなものかと理解する。
通知表、通信簿である。
人の価値を定量化するとはなんたる傲慢か、測定アルゴリズムは産総研にトレーサブルなのかと子供ながらに憤慨したが、あまり数値に意味はない。
数学が2でも皆と同じ給食を食べることができたし、皆公平に授業を受け掃除当番をする。
人は生まれながらにして平等で、命の価値に差異はなく皆尊い存在です。
ヒトの価値は数字じゃあ、測れないんだよ。

ナンチャッテ!
大人になると命の価値は数字でバッチリ決まります。
それは年収であったり、納税額であったりする。
年収が低いと給食も食べられないし、婚活では差別されバカにされるし、娯楽がパチンコとビールしかなくなるし、まるで自分が無価値のような錯覚に陥る。
歳を重ねれば重ねる程、収入による格差は広がっていく。
同世代で家庭を持ちマンションを買い車に乗って休日旅行に出かける隣人と、何も持たぬ自分との格差は目を覆いたくなる凄惨さだ。
そして国家は高額納税者を優遇し、貧困層は虫けらのように扱う次第である。
生活保護は食うに困った生活困窮者の犯罪から富裕層を守るためにのみ存在している。

そうなると俄然ファイトが湧いてくる。
社会からの評価、国家からの査定額などファック・オフだ。
高額納税者なんざ皆守銭奴、金に汚い嫌味な連中さ。
嗚呼いやだいやだ、金持ちは嫌だねエ──!
でも実際のところ金持ちは羨ましくもある。
どれくらい金を持っているのか、本当に嫌な奴ばかりなのか、関西弁を喋るのか、どこに生息しているのか、個体数はどれくらいなのか。
謎に包まれた資本家階級「金持ち」の生態について、自分なりにまとめてみました。

40年生きていると稀に金持ちと知り合うことがある。
個体数は少なく、今まで4人くらい「本当にこの人は金持ちなんだな」と思う人がいたので、彼らの特徴について本稿では述べる。
先ず金持ちは居酒屋で蒲鉾を注文する傾向にある。
1200円の刺身より2000円の蒲鉾盛り合わせを頼むのを見て驚愕した。
刺身が買えないから100円の板蒲鉾にワサビと醤油をつけて肴としていた自分にとって、居酒屋で蒲鉾を頼む行為は許しがたい程非道に映る。
なんでカマボコなんだよ、刺身を食わせてくれ。そんな願いは、届かない。
ありとあらゆる高級魚を食べつくした結果蒲鉾を好むようになるんだなきっと。
でもチクワは食べない。不思議です。

金持ちは喧嘩をする。
よく裁判をやっている。なんか裁判が好きらしい。
あとめっちゃ離婚している。だから裁判になるのか。
金持ちは喧嘩が好きです。

金持ちは驕らない。
自営業だと言うから小さな工務店でもやっているかと思って遊びに行ったら全然違う。
一等地のタワマン住まいで車を3台持ち、聞けばシンガポールにも支社があると言う。
エントランスで恐れながら訪いを入れると、いつものヨレヨレシャツと履きつぶしたコンバースで出て来て大変に動揺した。
時計やブランド品を一切身に着けず、金ある自慢も聞いたことがない。
それに年収とか資産を聞いても全然教えてくれない。桁も教えてくれない。
成功しても驕らず、謙虚で喧嘩好きな人が多い。どういう種族だ。

そう考えるとYouTubeで「年収がお医者さんくらいになりました」なんて得意気に公開している輩は絶対に金持ちになれなそうである。
資産4億FIRE!そのノウハウをnoteで販売中みたいな人も多いけどそれ言っちゃてる時点で嘘だと分かる。
金持ちはそんなこと言わない。でも喧嘩はする。

そして出会った金持ち皆に共通するのが、彼らは絶対に奢らない。
所有する日本銀行券を始めあらゆる資産価値の変動を極端に恐れ、日経平均株価を恋文でも読むように毎朝そわそわして眺めている。
そして何よりも明日来るやもしれぬ国立暴力組織「国税局」に怯え、隠れるように暮らしているのだ。
たまに飲み会にフラっと現れるから、土下座して懇願するも奢ってくれない。
国税の密偵が潜んでいると疑心暗鬼になり、違法賭博「領収証ジャンケン」にも参加しない。
そんな日陰で生きる現代の忍びが、金持ちの実態である。

金持ちは一般人に、巧妙に擬態している。
サラリーマンに、競艇場で焼酎飲んでるオッサンに、PJちゃんに、弱者男性に。
彼奴らの隠れ身の術を見破り、国税局にしょっぴいてやるのが、我々庶民の務めである。

税最高!! 税のおかげで大切な仲間とも出会えたよ

<第34回に続く>

あわせて読みたい

絶望ライン工(ぜつぼうらいんこう)
41歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。