ラストまで気が抜けない! 『東京バンドワゴン』小路幸也の大人気シリーズ最新作。伝説の大泥棒が潜む商店街で起きる騒動とは

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/12/11

花咲小路二丁目中通りのアンパイア
花咲小路二丁目中通りのアンパイア』(小路幸也/ポプラ社)

 まさかこれとそれが繋がって、こんなふうに着地するとは……! と、ラストまで気が抜けず一気読みしてしまった『花咲小路二丁目中通りのアンパイア』(小路幸也/ポプラ社)。天井をアーケードが覆う古き良き商店街でありながら、かつてイギリス全土を賑わせた伝説の大泥棒・怪盗セイントが潜む「花咲小路商店街」シリーズ、最新作である。

 深夜営業の喫茶店や、美術品や骨董品が持ち込まれる理髪店など、商店街のさまざまな店舗を主軸に、地元に根づいて生きる人たちの矜持と悲喜こもごもを描いてきた同シリーズ。今作のメインは、〈たい焼き波平〉店主・宇部禄朗。4人の姉はそれぞれ、商店街の店主と結婚し、実質、商店街を牛耳っていると言ってもいい宇部家の末っ子長男だ。元甲子園球児で、今も休日はアンパイア(審判)をつとめるほどの野球好き。女性には縁がなく、堅物でとおってきたが、同じ商店街で育った14歳下のユイとの結婚を決めた彼の、幸せいっぱいの生活――ではなくて、とある秘密をめぐる騒動が描き出されていく。

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 というのもこの禄朗、人の嘘がわかってしまうという。その能力を生かし、最初につとめた警察で検挙した犯人の数は、なんと2年で228件。まさに天職といえるその仕事をやめたのは、人の嘘にまみれることに耐えられる性格ではなかったからだ。人は簡単に嘘をつく。誰かを騙そうとして、だけでなく、よかれと思って、あるいはなんの気なしに、本当ではないことを口にしてしまう。理由もわからずただ「この人は嘘をついている」ということだけ知ってしまうのは、相当にしんどいことだろう。でも、裏表の一切ないユイという相棒を得たことで、禄朗はその力を商店街の人たちのために役立てるすべを見つけていくのである。

 とある少年が、友達のためについた嘘。偽名で働き続ける義兄の店の従業員。「自分は怪盗セイントではない」と笑う旧知の男。そして、禄朗が高校を留年するきっかけとなった、アンパイアの嘘判定――。一見関係なさそうな嘘が重なりあって、物語は思わぬ方向に転がっていく。その過程で、禄朗がなそうとするのは、嘘を暴いて善悪をジャッジすることではない。嘘の理由がわからなければ、いざというとき守ってあげることができない。誰かに不当に「アウト」と判定されて、人生を台無しにされないよう、サポートしてあげなきゃいけないと思う、禄朗の誠実な優しさが沁みる。

 もちろん、なかには、簡単に許せない嘘もある。事情はわかるけど「それはどうなの?」と思うようなものも。だけど、野球ならいざ知らず、誰かに害をなす嘘でない限りは、他人の選択を安易にジャッジすることはできない。していいことでもないと、禄朗は知っている。そんな、礼儀を重んじ、公平で厳格であるべきという、私生活でも徹底されたアンパイアとしての禄朗の精神が、商店街を、そこに生きる人たちの生活を支える屋台骨のひとつとなるのである。

 そして禄朗を支えるユイが、2人の幸せを願って手を差し伸べる人たちがいるから、商店街の平和は今日も守られる。誰もがそんなふうに、生きていけたらいいのにと、しみじみ願いたくなる。

文=立花もも

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