【Gakken × パイ インターナショナル 合同インタビュー 第3回】ベルギーを代表する絵本作家 ヒド・ファン・へネヒテンさんに、日本語翻訳版の作品をどう思っているか、ずばり訊いてみた!〈『ちっちゃな おさかなちゃん』20周年! 『おむつのなか、みせてみせて!』15周年!〉 (Gakken)
更新日:2024/12/10
ベルギーを代表する絵本作家、ヒド・ファン・へネヒテンさん。これまで数々のベストセラーを生み出してきました。
いまや40か国以上で翻訳出版されているその作品たちは、世界中のこどもの心をつかんではなしません。
日本でも多くの親子に愛されている『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズ(Gakken)や、『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズ(パイ インターナショナル)は、2024年にそれぞれ周年をむかえました。
Gakkenとパイ インターナショナルは、この記念すべき周年に際し、同じ原作者の作品の翻訳出版を手がけた出版社どうし、ヒドさんの絵本をいっしょに盛り上げてきました。
このコーナーでは、ヒドさんの合同インタビューを合計3回にわたって公開。今回はいよいよ最終回です!
合同インタビュー第3回の今回は、今年2024年11月に発売された『おふとんのなか、みせてみせて!』、同じく2024年の4月に発売された『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』など、日本からのリクエストや発案で生まれた作品について、ウラ話やヒドさんの思いを訊いてみました。
ヒド・ファン・へネヒテン
日本からのリクエストで 誕生した一冊!
2024年11月22日に、『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズの新作『おふとんのなか、みせてみせて!』(パイ インターナショナル)が発売されました。
日本から新作のテーマをリクエストしたことで誕生したという、要注目の作品です。
これまで翻訳出版されたシリーズについて、各国の出版社から新作のリクエストがよく入るとうかがいました。このことをどのように感じていますか。
ヒド・ファン・へネヒテン(以下ヒド): シリーズの新作として、こんな作品を描いてみてはどうかという提案をいただくことは、たしかによくあります。提案をいただくのはいつでもうれしいものですが、必ず実現するというお約束はできません。それでも、できるだけリクエストに応えたいとは思っています。
いただいた提案はすべてきちんと検討しますが、はっきり言って、すぐにアイディアがわくような案はなかなかありません。
絵本作家としての自分の力を過信しているわけではないのですが、作品として成立させるためには、クリエイティブな視点が必要なのです。
なるほど。そのような厳しい「審査」の末、『おふとんのなか、みせてみせて!』は、みごとリクエストが通って、実現したのですね。日本から提案したいくつかのテーマの中から、ヒドさんが描きたいテーマ(ねんねトレーニング)を選んだそうですが…。
ヒド: 数年前に、ベルギーのClavis Uitgeverij(原作出版社)と日本のパイ インターナショナルがミーティングをした際、ねずみくんのシリーズとして「トイレトレーニング」以外のテーマを扱う可能性はあるか、と質問があったそうです。
いくつかのテーマの候補をもらい、その中に「おやすみなさいの絵本」がありました。
テーマとねずみくんを結びつけようとしているうちに、これはうまくいくぞ、という手ごたえを感じたのです。
「おやすみなさいの絵本」というお題で、まさかこういう展開の物語になるとは…! かけぶとんのしかけをめくるワクワク、この動物のおふとんの下はどうなっているんだろう? という期待がふくらむ作品になっていて、良い意味で改めて、ヒドさんはこども心を持ち続けているのだなぁ…と感じました。
ヒド: ハハハ。はっとひらめき、ワクワクする気持ちが生まれ、「物語の続きを知りたい」「次のページではどうなるか知りたい」とわたし自身が思うことが、作品作りの原動力になっています。何がひらめきのきっかけとなるのかは、わからないものです(笑)。
ねずみくんの言葉や行動には、どんな思いやテーマをこめましたか?
ヒド: このシリーズの共通点は、ねずみくんがお友だちよりひと足先に成長している、ということ。自分が学んだこと(スキルや心がけ)をお友だちと共有したいと思っています。おしつけがましくしたり、知識をひけらかしたりするのではなく、ユーモアをまじえながらね。ねずみくんは、ある意味「リーダー」なんです。
そんなわけで、この本でも、お友だちの「いいお手本」になって、おやすみの習慣を伝えています。
おふとんのなか、みせてみせて!
作:ヒド・ファン・ヘネヒテン訳:松永 りえ
企画の持ち込みを受けいれて 誕生した一冊!
一方、今年2024年4月4日には、『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズの新作『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』(Gakken)も発売されています。
こちらは日本でラフコンテを起こし、ストーリーや登場キャラまでトータルで提案して実現した、ヒドさんの作品の中でも初の試みの一冊です。
「おさかなちゃん」の20周年を祝う新作として、『ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ!』の企画を日本から提案されたとき、どのように感じましたか。
ヒド: うれしい驚きでした。日本から送られてきた企画書は非常によく練られていて、心がこもっているのわかりました。
シリーズの「エピソードゼロ」を作るというのは実にワクワクする試みだったね。
提案をいただいてすぐに、あれこれ考え始めたよ。
日本と連絡をとりあいながら一冊の絵本を作りあげていく過程は、すごく楽しかった。すばらしい企画に声をかけていただき、感謝しています。ありがとう!
日本の描き起こした絵コンテから、大きく変更した点はありましたか。
ヒド: まず、生まれたばかりのおさかなちゃんをどう描こうか、悩みました。試行錯誤の結果、ほかの巻のおさかなちゃんより目を大きく、そして下の方に描いています。さらに尾びれを小さめにしています。
また、ラストは、このシリーズのほかの作品と同じように、海の仲間たちが全員そろう場面に変えました。
新しい命をいつくしむというのは、人生においてとても大切なこと。赤ちゃんの世界が広がっていくのをみんなで見守るのは、すばらしい体験だからです。
ヒドさんとしてこの物語に、どんな思いや願いをこめましたか。
ヒド: 生まれてきた赤ちゃんをむかえるときのワクワクした気持ちや喜び。それを、表現したいと感じました。
おさかなちゃんのママとパパは、世の中のすべてのママとパパを表しています。ママとパパの個性も、いろいろな国の読者にとって共感できるものであるようにと考えて描きました。
日本で生まれ変わった作品に ワクワク!
ヒドさんの作品たちは、さまざまな国で翻訳出版されていて、その数は40か国以上とうかがっています。各国の『おむつのなか、みせてみせて!』シリーズと『ちっちゃな おさかなちゃん』のシリーズの翻訳版の中で、ヒドさんが特に気に入っている本はどこの国のものでしょう?
ヒド: おせじではなく、わたしの作品の中で、日本語版はピカイチです。どの絵本も、とてもていねいに編集してくださっています。原書と異なる点もありますが、それが日本の読者への配慮だということがよくわかります。
ねずみくんの日本語版シリーズは、すばらしい出来です。紙の質、みごとな印刷、すてきなブックカバー。何もかもがていねいに作られています。
おさかなちゃんの日本語版シリーズも、とても気に入っています。
原書より読者層を下げて0歳~3歳にしたのも、興味深い。日本の読者層に合わせてサイズが小さく、角が丸く、厚紙のボードブックで、中ページも0歳~3歳にあった、たくさんのくふうがされています。
また、どのページも表面が加工されていて光沢があるので、背景の黒がより引き立ちますね。
ヒド: 日本以外の国の翻訳版は、原書とほぼ同じなんですよ。著者のわたしにとって、日本語版でのくふうや提案は、最高にうれしいプレゼントです。
ちっちゃなおさかなちゃん、うまれたよ! うれしいな
絵:ヒド・ファン・ヘネヒテン文・企画・原案・構成:古藤ゆず
0さい~3さい脳そだて おさかなちゃんと あ~そ~ぼ!
作・企画・原案:古藤ゆず絵:ヒド・ファン・ヘネヒテン監修:茂木健一郎
0さい~3さい脳そだて おさかなちゃんと あはは!
作・企画・原案:古藤ゆず絵:ヒド・ファン・ヘネヒテン監修:茂木健一郎
こどもたちに 伝えたいこと
ヒドさんが、絵本の製作を通じてこどもたちに伝えたいのは、どんなことでしょう?
ヒド: 何より大切にしているのは、ママ・パパとこどものきずなを深め、つながりを生む絵本を作るということです。
こどもにとって、大好きなママやパパによる読み聞かせほど、すばらしい時間はありません。昔ながらの読み聞かせの大切さこそ、絵本を通じて伝えたい「メッセージ」かもしれません。
絵本を読んでもらったこどもはきっと、自分なりのお話を思いつくようになるでしょう。お話をすること、お話に耳をかたむけることで、世界が広がるのです。
最後に、今後描きたいと思っている作品はどんなものでしょう?
ヒド: 自分でも、これから何を描こうかなとワクワクしているところです。この好奇心がわたしの原動力なんだ!
以前は、60歳になったらもう絵本を描くのはやめると宣言していました。60歳をむかえたときは、65歳になったら引退しようと考えていました。最近では、もうそんなことを言ったり考えたりはしていません。これからどうなるかは、見てのお楽しみです。
ねずみくん、おさかなちゃん、そのほかの作品のキャラたちが、わたしに新しい絵本のアイディアをくれるかもしれませんね。そのサインを見のがさないようにしたいです。
作品の主人公たちと常に対話しながら世界を広げていく「こどものような無邪気さと好奇心」。ヒドさんを表すなら、まさにこの言葉がぴったり。
どのシリーズにも独自のテーマとユーモアが盛りこまれていて、こどもだけでなく大人の心もつかんではなしません。
そんなヒドさんの作品は、今後も大注目です!