ずっと独身でいることはみじめでもなんでもない! 本当に辛いのは……
公開日:2016/1/5
「今年こそ私、結婚するから!」
もう何度友人から、このセリフを聞いてきたことか。まるで焦りがない彼女に向かって私は、数年前までは「このやるやる詐欺め!」とおちょくっていた。しかし今では笑顔で「そうなるといいね」と答えるのみになった。なぜなら結婚は1人ではできない。決意だけではどうにもならないからだ。だから書店で『ずっと独身でいるつもり?』(おかざき真里、原案・雨宮まみ/祥伝社)を見かけた時も、「そんなこと言われてもだよねえ……」とつぶやいてしまった。
同作は2013年に発売された雨宮まみのエッセイ(関連記事:https://develop.ddnavi.com/review/174438/a/)を原案に、『サプリ』や『阿・吽』などの作品で知られる漫画家のおかざき真里が、ストーリーを考案したもの。「30すぎは夫婦に子供ふたりのケースに最適化されている公共サービス」に嘆いたり、母親の「地震の時に頼れる人もおらんと思ったら、なんだかかわいそうになって」というセリフに傷ついたりしながらも、自分の足で人生を歩む36歳の独身女性たちを描いている。
親族から「かわいそう」と言われたり、街コンで「重い女」扱いされたりするのは、確かに楽しいことではない。しかし彼女たちには、実は悲壮感がない。それはもちろん、結婚できない自分をそこまでみじめだと思っていないこともあるが、それ以上に「都会でバリバリ働いて、がっつり稼いでいる」ことが理由だと思われる。
それぞれのエピソードに登場する、まみや由紀乃やシミズたちは、凝ったインテリアのマンションに住んでいたり、ドバイ旅行を計画していたりする。結婚しかけた男性を紹介するために実家に帰った際は、「田舎の小さい仕出し弁当屋さんはダメだなあ」と、天ぷらにダメ出しまでする(だから結婚でき〈以下略〉とツッこんではいけない)。急な仕事が入れば全力でこなし、クライアントからのOKもなんなく取り付ける。見ているこっちまで息切れしそうな勢いで、日々を懸命に生きている。
彼女たちは、結婚していないことへの周囲の心配や蔑みに憤りながらも、「幸せって何だろー」の問いに、「したいことや好きなことを自分の力で手に入れること」との答えを導き出し、大いに納得している。
自力で稼いで社会とつながっていれば、おそらく女性であっても独身というだけでは、真の生きづらさを味わうことはないのかもしれない。なぜなら独身でいることよりも、もっと恐ろしいことがこの世界には存在するからだ。
それは「女性の貧困」だ。まみちゃんたちは皆、バリバリ働いて稼いでいる。しかし日本における女性の非正規雇用者数を見てみると、2011年は1241万人だったのに対し、2014年は1332万人にあがっている(総務省「労働力調査」より)。もちろん独身と既婚者では事情が違うし、出産や子育てで正規雇用をリタイアする人もいるのは事実だ。しかしこの3年の間にも、非正規雇用で働く女性は確実に増えている。そして「働いてるけど食べるのがやっとの稼ぎしか得られない」といった、賃金の低さもあちこちで話題になった。2014年には、リストラされてから生活保護を受給した独身女性を描いた『失職女子。』(大和彩/WAVE出版)や、風俗に行っても稼げない女性たちのルポ『最貧困女子』(鈴木大介/幻冬舎新書)などが出版されている。
まみちゃんたちは、色々な場面でみずから選択することができている。しかし失職女子や貧困女子たちは選ぶこともできないし、おそらく誰かや何かから選ばれることも難しい。由紀乃は「独身子なしは(社会保障の)サポート対象外」と嘆いているが、本当の対象外女子たちは、生きることそのものが危ぶまれているのだ。この物語の主人公たちが「は~また独身でいることをネタにされたわ~」と憤慨しながらオシャレなレストランで食事をする一方で、今日の米代すらあやうい貧困女子たちがいる。それが今の日本なのだ。
もちろんバリバリ働くキラキラ女子はこのご時世でも存在していて、女性ファッション誌をめくれば仕事に精いっぱい向き合う、彼女たちの生きザマを知ることができる。しかし考えてみてほしい。そんな女子がフツーにそのへんにいたら、憧れの存在のように取り上げられたりはしない。都会にわずかな数が生息しているから、雑誌の記事になるのだ。
そう考えると同書は帯に「全女子共感度100%!!!」とあるが、それは良き時代のことのような気がする。「シンガーソングライターのmiwaも共感!!」ともあるが、彼女も立派なキラキラバリバリ女子だ。ちなみにくだんの友人も「もう疲れたから仕事辞めたい」と日々愚痴っているが、有名企業の正社員で夏と冬にはボーナスがあり、欲しいものは悩まずに買える程度の収入がある。まさに「衣食足りて独身に気付く」のか……!?
「仕事ばっかで気が付いたらこんな年になっちゃった。でもとりあえずボーナスで、欲しいバッグを買っちゃったから幸せ」なんてOLさんたちが、そこかしこにいた時代に戻れたら。いや、戻らないまでももう一度おとずれたら、私も友人に「ずっと独身でいるつもり?」と言ってしまうかもしれない。しかしこのご時世なら、「それよりも今の仕事を手放すな!」と言うだろう。独身でいても命まではとられないけれど、貧困は死に直結する。それが今の、日本の女性が直面している現実だからだ。
文=久保樹りん