ラグビー日本代表の劇的勝利は必然だった!? 五郎丸が語るエディー・ジャパンの快挙の秘密
更新日:2016/3/14
見るものの胸を熱くし熱狂させた、ラグビーワールドカップイングランド大会における日本代表の快挙は今も記憶に新しい。初戦の南アフリカ戦では強豪相手に劇的勝利を収め、世界中のラグビーファンの度肝を抜いた。24年ぶりの奇跡的勝利のニュースは、それまでラグビーには関心をもたなかった人々の心もわしづかみにした。ピッチの上で彼らが闘う姿は勇敢でアグレッシブで粘り強く、そして誇らしかった。
その立役者のひとり、日本代表FB五郎丸 歩選手(ヤマハ発動機)は今年2月からオーストラリアクインズランド・レッズでプレーすることが決定した。彼がW杯中、毎日書いていた日記を完全収録した書籍が、『五郎丸日記』(小松成美/実業之日本社)だ。五郎丸選手といえばキック前のルーティンが話題になったが、エディーヘッドコーチの勧めで大会期間中は日々の日記も新たなルーティンにしていたのだという。自身の筆による書は彼の心の動きを克明に切り出し、あの2週間をエディー・ジャパンがいかにして闘ったのかが浮き彫りにされている。
試合後の会見などを見ても比較的感情を露わにしない五郎丸選手だが、この日記は事実を淡々と積み重ねた記録にとどまらず、彼の心情の動きが読み手にリアルに響いてくる。荒ぶる心や押しつぶされそうな緊張感、ともすれば感激に涙しそうな瞬間など、自身の揺れ動く感情を素直に捉えてそれらに冷静に対処しようとする、熱さとストイックさが入り交じるさまが印象的だ。1日の出来事を詳細に綴る日もあれば、南アフリカ戦直前などは「ここ数日、緊張感が抑えきれない。試合までに我を取り戻せ」とただ一行のみの日もあり、国を背負う高揚感と重圧感をかいまみるこちらの心も揺さぶられる。
エディー・ジャパンが快挙を成し遂げた“ジャパン・ウェイ(日本ラグビーならではの流儀)”として、世界一苛酷な長期合宿や緻密なデータ戦略がメディアで伝えられているが、本書では日々戦術を落とし込むため、選手による自主的なミーティングやプレゼンが頻繁に行われていたことも明かされている。
たとえば、W杯経験者が少なく年齢の若い選手たちにもよく理解してもらえるよう、スクリーンを使いイメージ映像なども用いて、プレゼンスタイルで戦術を落とし込んでゆく。人々の関心を集めたサモア戦直前にも、五郎丸選手はキャプテンのリーチ・ マイケル選手から依頼され、勝利のために必要な「First To Act(先手を取る)」、さらにそれをどのように実行するのかを、文字とイメージ映像を交えて選手たちにプレゼンしたという。戦略をたて、それにもとづき試合を行い、試合後は気を抜くことなく反省点と修正箇所、そしてチームの目指す目標を再度確認する。個の力を高めつつチームとしての機能を失わずに邁進するためには、こうした個々のマインドに修正効果をもたらすミーティングやプレゼンに費やした時間も、大きなカギを握っていたのではないだろうか。
また本書には、ノンフィクション作家の小松成美氏による五郎丸選手へのインタビューも掲載され、あのルーティン誕生への遥かな道のりを知ることができる。日記に綴られなかった別の視点からのエディー・ジャパンの側面や、荒木メンタルコーチのW杯帯同エピソードなども紹介され、本書により一層の厚みを加えている。
私たちはスポーツの試合における「勝利」という、水面下の地道な努力の成果としてのきらめく瞬間に歓喜し感動する。しかしその裏側には日々目標に向かって専心し、ただひたすらに研鑽を積み重ね続けるアスリートたちの人生がある。五郎丸選手のこの日記の先に続く、彼らの新たな歴史を目撃できる日を心待ちにしたくなる一冊だ。
文=タニハタ マユミ