誰が一番ヘンタイか? 斬新な切り口で西洋絵画を解説!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


『ヘンタイ美術館』(山田五郎、こやま淳子/ダイヤモンド社)

 学校で勉強したり、美術館で鑑賞したりと、子どもの頃から何らかの形で接する機会のある西洋絵画。有名な画家の展示が行われると美術館が長蛇の列となることも珍しくなく、人気の高さがうかがわれる。しかし、興味はあるけれど何だかハードルが高いと感じている人や、もっと知識があればさらに楽しめるのに…と感じている人もいるのではないだろうか。

 そんな人にオススメしたいのが『ヘンタイ美術館』(山田五郎、こやま淳子/ダイヤモンド社)だ。テレビ番組でもおなじみの山田五郎氏が館長という設定で、12人の天才画家を「誰が一番ヘンタイか?」という切り口で解説している。

 「教科書でも取り上げられるほどの偉人に対してヘンタイとは失礼な!」と感じる人もいるかもしれない。この部分については、山田氏もあとがきでコメントしているが、本書では変態とは区別してヘンタイと表記し、教科書には載っていない天才画家の変わったエピソードを“ヘンタイエピソード”として紹介している。

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 時代ごとに巨匠といわれる画家が3人紹介されているが、最初に登場するのはルネサンス時代の巨匠。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロだ。

 映画がヒットしたことを考えると、最も知名度が高いのは「モナ・リザ」を描いたダ・ヴィンチだろうか。しかし、彼の代表作は他の2人と比較すると少ない。さらに、当時のイタリア人芸術家(3人ともイタリア人)にとって最高の名誉はローマ教皇から注文を受けてバチカンに作品を残すことだったが、ダ・ヴィンチの作品はひとつも残されていない。それにもかかわらず、彼がこれほど有名なのは、「モナ・リザ」というヒット作を生み出した一発屋だからだとか。さらに、小悪魔的なダメンズが好みだったようで、自身の絵のモデルにもなっている弟子は絵の才能もいまいちで、盗癖まであったらしい。

 ダ・ヴィンチとは対照的に、職業画家として大きな成功を収めたのがラファエロだ。多くの宗教画を残しており、特に「聖母子の画家」と呼ばれるほど聖母子像が多い。大作を数多く残したラファエロは、工房を持ち弟子に絵をどんどん描かせていたそう。人付き合いを得意としていたため、絵の注文がひっきりなしに入ったのだ。こう見ると、ラファエロには、ヘンタイ要素はあまりなさそうだ。

 この時代のもうひとりの巨匠であるミケランジェロは、人付き合いが苦手だった。芸術家としての才能がずば抜けていたため、バチカンに大作を残しているが、他人を信用しない仕事人間で、何でも自分でやらないと気が済まない性格だったそう。さらに、筋肉フェチだったようで、絵画でも彫刻でも、男でも女でも、とにかく筋肉がフィーチャーされている。

 他にも、見る人の病んだ心を刺激してしまう呪われた名画を残したレンブラントや、可憐な踊り子の中に必ずと言っていいほど頭の薄い中年男を登場させてエロティシズムを強調したドガなど、あまり知られていないエピソードやユニークな視点が満載だ。「睡蓮」で有名なモネは、同じものを何度も描く連作に没頭し、「睡蓮」に関してはなんと200枚以上も描いた。私生活では、自らの子ども2人に加えて、パトロンの奥さんとその子ども6人を受け入れて、大家族の父親になっている。

 これまで、ルーヴル美術館など海外の美術館に足を運んだことのある筆者も初めて知る内容が多く、本書を読んだ後には改めて美術館に行きたくなった。巨匠たちの作品も多数紹介されており、西洋美術にあまり詳しくない人にも、新しい視点で絵画を見たい人にもオススメの一冊。冬の休日は、暖かい部屋でのんびり絵画鑑賞をしてみては?

文=松澤友子