大切なのは「ひっくり返す」テクニック 発想の転換で、新しいアイディアを実現しよう

ビジネス

公開日:2016/2/1


『企画はひっくり返すだけ!』(寺井広樹/CCCメディアハウス)

「離婚式」という言葉を聞いたことはあるだろうか? 「涙活」はどうだろう? どちらも、この数年で耳にするようになった言葉だ。TBS系ドラマ「恋愛ニート」を見ていた人なら、第一話で登場人物たちが出席していたのが離婚式だったことを覚えているかもしれない。

 どちらも、内容を知らなくても字を見れば、何となくどういうものなのかが伝わってくる。離婚式は結婚式の反対で、離婚をする夫婦のためのセレモニー。涙活は文字通り、涙を流す活動だ。私自身、離婚式という言葉を初めて聞いた時に「え? 結婚式じゃなくて離婚式?」と、疑問に思ったのを覚えている。

 そしてこれこそが、『企画はひっくり返すだけ!』(寺井広樹/CCCメディアハウス)で著者が勧める“ひっくり返す”テクニック。既存のアイディアをひっくり返した発想で、人の興味を惹きつけるのだ。

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 例えば離婚式は、「結婚式があるのに離婚式がないのはなぜ?」という、著者の子どもの頃からの疑問に端を発している。そこから、離婚に至ったいきさつを説明することで、その先の人生も胸を張って歩みやすいのでは…と考えるようになり、離婚式が誕生したそうだ。

 言われてみれば納得だが、まだまだ日本の社会では、離婚をポジティブに受け入れる風潮は強くはない。そんな中で、「離婚式」と銘打ってセレモニーを行うなんて、不謹慎だと感じる人も少なくないだろう。実際、著者がお世話になった先輩の離婚式をプランニングしたいと申し出た時、「ふざけるな!」と一喝されたそう。しかし最終的には、先輩にも出席者にも満足してもらえて、その後6年間でなんと300組以上もの離婚式をプランニングすることになった。

 ひっくり返すのはアイディアだけではない。アイディアをさらにユニークなものにするために、そこで使う用語にもひっくり返しテクが使われている。例えば、新郎・新婦ならぬ旧郎・旧婦。仲人(なこうど)ならぬ裂人(さこうど)。他にもケーキ入刀の代わりに指輪割りをするなど、少し過激だが著者曰く「ユーモアを交えながら、離婚の悲しさ・寂しさを紛らわせ、気持ちを吹っ切ってそれぞれの明日に向かうのに役立つ」ものとなっている。さらに、人の印象に残るようなキーワードがあることで、企画の成功につながるという利点もある。

 このように、躊躇してしまいがちなアイディアを、逆風に負けず実行に移して成功を収めている著者だが、本書ではこのひっくり返しテクを使い倒すための3つのコツも紹介されている。

1、常に反対語を思い浮かべる習慣をつける
2、タブー視しないでどんどん出す
3、「ダメなアイディア」を100個考えるところから

 まずは日頃から見聞きすることの逆を考えるようにする。そして、ひっくり返している時に「これは不謹慎でダメだろう」などと自分でセーブせずに、思いっきりアイディアを出す。アイディアを100個くらい出していくと、頭も柔らかくなり、企画の幅が広がるのだ。

 ちなみに、先に紹介した「涙活」は、離婚式で旧郎が号泣した後にスッキリとした顔をしているのを見たことで生まれたそうだ。ここでも、ネガティブに受け取られがちな「泣く」「涙」というものを、「ストレス解消に役立つ」ポジティブなものにひっくり返したというわけだ。

 他にも本書では、アイディアに肉付けをする方法や、メディアを動かす行動力、マネタイズ理論などについても紹介されている。ひとつのアイディアが生まれてから企画として立ち上がり、そこから様々なコラボレーションが生まれていく流れが分かりやすく、面白く説明されているので、アイディア出しや企画で悩んでいる人は、ここからヒントが見つかるかもしれない。もちろん、読み物としても楽しめるので、幅広い方にオススメしたい一冊だ。

文=松澤友子