寺島しのぶ「自分がどうしてもやりたいということが明確になってきました」
公開日:2016/2/15
「『漁港の肉子ちゃん』を読んだのは、東日本大震災のすぐあとだったと思うんです」
ブログによれば、それは寺島さんが一関へと向かう新幹線の車中だった。2011年9月21日、この日は一関から気仙沼の仮設住宅へ、翌日は陸前高田〜大船渡の小学校へ向かった。
あとがきで西加奈子さんが自ら書かれている通り、『漁港の肉子ちゃん』の舞台は宮城県石巻市がモデルになっている。連載中に3・11が起こり、それでも書き続けられたこの小説を携えて、寺島さんは被災地に向かったことになる。
この時のブログには「読みながら、大船渡の魚市場を思い出しました。はやく活気のある街に戻ることを切に願います。『漁港の肉子ちゃん』は最高に素敵な本でした」とあった。書かれるべくして書いた小説は、読まれるべき人にこうして届くのかもしれない。そんな思いにさせられる。
震災直後、寺島さんは、親交のあるジェーン・バーキンとライブを行っている。
「アーティストの来日が次々とキャンセルされるなか、ジェーン・バーキンだけは強行して来てくれたんですよ。止められるからって家族にも内緒で来た。ものすごくピュアで、余分なものは省いてきた人。私もあんなふうでありたいと思う」
この時のライブで、寺島さんは茨木のり子さんの詩「わたしが一番きれいだったとき」を朗読した。
「私自身、子どもを産んでから余分なことはできなくなった。余分なことなんてないと思ってきたけど、自分がどうしてもやりたいということがより明確になってきた感じですかね。『シェル・コレクター』も万人に受ける作品ではないと思うんですが、インディペンデントな映画って予算がカツカツの中でも大手の映画に負けない何かをつくってやろうって職人気質の人が多い。たぶん私はそういうアナログで熱い人たちを知っている最後の世代。こういう映画を大切にしなきゃいけないよねって、リリーさんとも話していたんです」
アンソニー・ドーアの原作を、新潮クレスト・ブックスの初期の名作としてご記憶の読者も多いのでは。聞くところによれば、坪田義史監督は「盲目の貝類学者が海の底の椅子に座っていると、頭上をウミガメが横切る」というイメージショットを撮影するのに、実際にリリーさんに海底に沈んでもらって撮影したツワモノらしい。
「私が演じるいづみがひとりエッチをして、それをリリーさんが聴いているシーンも、すごく時間をかけて撮ったのに全編カットですから(笑)。まあ、そういうところも好きですけどね。日本映画がちょっとおとなしくなりすぎてる感じがするので、こういうちょっとクレイジーな監督が出てきたのが嬉しいし、海外で評価されてほしいなあと思っています」
(取材・文=瀧 晴巳 写真=冨永智子)
てらじま・しのぶ●1972年、京都市生まれ。92年、文学座に入団。2003年、映画『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞ほか国内外の賞を多数受賞。10年『キャタピラー』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。他の出演作に『愛の流刑地』『日本の悲劇』『千年の愉楽』など。
ヘアメイク=片桐直樹(EFFECTOR) スタイリング=中井綾子(CONTEMPORARY CORPORATION) 衣装協力=トップス 3万2000円(バイ マレーネ ビルガー/バイ マレーネ ビルガー青山店 TEL03-6450-6461)、パンツ(スタイリスト私物)、リング 1万1000円(アデル ビジュー/アデル 伊勢丹新宿本店 TEL03-5457-8858)、ピアス 24万2000円(ホーセンブース/ホーセンブース ドットコム TEL03-6427-8721) ※すべて税別
男に騙され、捨てられ、借金を背負わされて北の漁港に流れ着いた肉子ちゃんとその娘で小学校5年生のキクりん。肉子ちゃんの本名は菊子。でも誰も本名では呼ばない。太っていて不細工で、でも底抜けに明るい肉子ちゃんは焼肉屋「うをがし」で働いている。肉子ちゃん母娘と港町の人々を活写した傑作小説。
映画『シェル・コレクター』
原作/アンソニー・ドーア(新潮クレスト・ブックス) 監督/坪田義史 出演/リリー・フランキー、寺島しのぶ、池松壮亮、橋本 愛、普久原 明 配給/ビターズ・エンド 2月27日(土)より、テアトル新宿、桜坂劇場ほか全国ロードショー
●物語の舞台を沖縄の離島として映画化。盲目の貝類学者が、島に流れ着いた女の奇病を偶然イモガイの毒で治してしまう。奇跡の治療を求めて島に人が押し寄せるようになり、孤独を愛する彼の生活は一変する。
© 2016 Shell Collector LLC(USA)、「シェル・コレクター」製作委員会