めくるめくエロ・グロ・ナンセンスの世界へようこそ コアなファンが熱狂する、奇天烈マンガ家・駕籠真太郎って?
公開日:2016/2/7
現在、開催されている展覧会「駕籠真太郎・奇想大全」。マンガ家・駕籠真太郎氏のモノクロマンガ原稿を1万点以上も展示し、さらには単行本未収録の原稿も公開している、ファン垂涎のイベントだ。しかし、この駕籠氏について、あまりよく知らないという人も少なくないかもしれない。なぜならば、彼の作品は、お世辞にも大衆受けするものではないから。しかしながら、ハマる人にはハマる。果たして、彼が繰り広げる作品世界とはどういうものなのか。ここで解説させていただこう!
彼の作風を、わかりやすく一言で表現するならば、「エロ・グロ・ナンセンス」。これに尽きる。たとえば、短編集『異物混入』(青林工藝舎)に収録されている「壁ドン」と題された作品では、壁ドンがオスによる生殖方法となった世界を舞台に、貞操を守るために抵抗するメスたちの攻防が描かれる。「SMへの誘い」では、彼氏にいじめてもらいたい女の子が、彼氏に叩いてもらうために試行錯誤するし、「真昼の決闘」では、ガンマン風の男たちが、相手のペニスをチャックに挟むという真剣勝負を繰り広げる。……もはや、意味不明だ。
また、『宇宙かける純情』(久保書店)という短編集には、エロ・グロ・ナンセンスにSF要素がミックスされた作品が収録されている。本書のなかでもとっておきの作品が、「花咲ける純情」。これは、とある秘密を持って生まれた愛子という少女の人生を描いたものなのだが、その秘密というのが、「愛子の直腸は異次元に直結している」というもの。そのため愛子は、生まれてこの方大便をしたことがないという。そんな奇病(?)を持ったがゆえに、愛子は陸軍科学班に出頭を命じられてしまう。そして、さまざまな人体実験を受け、最終的には、人型破壊兵器として生まれ変わるのだ。すべては、大便が出なかったために。なんて可哀相な愛子。
もちろん、駕籠氏は、しっかりとしたストーリーマンガも描いている。たとえば、『ハーレムエンド』(コアマガジン)。本作は、とある男の元に、幼なじみ・ツンデレ・婚約者・義理の妹・宇宙人というさまざまな属性を持った女子が押しかけるところからスタートする。まるでラノベのような展開に、「作風変えた?」と面食らってしまうファンもいるだろう。ところが、それは早合点。彼女たちの正体は殺し屋で、そうやって近づいた男たちをスプラッター映画も顔負けな方法で殺害するのだ。もちろん、証拠隠滅もお手の物。切り刻んだ身体を茹で、肉と骨にバラし、ミキサーで粉砕した後はトイレへ流す。そして、さらに、駕籠氏お得意のメタフィクション的な要素もあり、物語は二重構造を持って終わりを迎える。
ミステリー的な雰囲気を匂わせつつ、いつのまにかナンセンスワールドへと誘導するのも彼の得意技。『フラクション』(コアマガジン)や『アナモルフォシスの冥獣』(コアマガジン)はそういった作品で、謎の殺人事件が発生し、それを追いかけている内にもはやわけのわからない展開へと突き進んでいく。そこには、コナンくんばりの名推理なんて存在しない。ただただ、深遠なる駕籠氏の世界が口を広げて待っているだけだ。
繰り返し言うけれど、駕籠真太郎氏の作品は万人に勧められるものではない。しかし、ハマる人には確かにハマるのだ。エロ・グロ・ナンセンス・殺人・排泄物・狂気……こういった単語にピンと来た人は、騙されたと思って一冊読んでみてほしい。気づけば、そのアブノーマルな世界にどっぷり浸かっているはずだ。
文=前田レゴ