真っ当な保守であった三島由紀夫が予言した「B層に支配されてしまった今の日本」
公開日:2016/2/10
民族主義、愛国教育、徴兵制、核武装…。このような言葉を、ひと昔前に比べて、日常的に見聞きするようになった。日本の未来に不安を感じている人は少なくないはずだ。
『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒(講談社+α新書)』(適菜 収/講談社)は、冒頭で「日本は腐っている」と現状を悲観している。そして、「腐りゆく」日本の徴候をすばやく察知し、警鐘を鳴らしていたのが、かの有名な作家・三島由紀夫だとしている。
1970年、自衛隊市ヶ谷駐屯地でクーデターを促し、割腹自殺をした三島。本書は、三島に対する「エキセントリックな右翼」「偏狭な復古主義者」などといった評価は正当ではなく、三島は「真っ当な保守」だったとしている。実は、三島こそが民族主義や国家主義を警戒し、反共や復古主義の欺瞞ならびに愛国教育や国粋主義を嫌い、軍国主義を批判し、徴兵制と核武装を否定した。真っ当な保守の立場で、右と左の両方から発生する全体主義に警鐘を鳴らしていた、というのだ。
そもそも「保守」とは何なのか。本書によると、保守とは「人間理性に懐疑的である」立場。人間は合理的に動かないし、社会は矛盾を抱えていて当然。そういう前提があるため、非合理に見える伝統や習慣、文化を擁護し、宗教を重視する。時代で変質する人権や自由に普遍的な価値を見出さず、個別の現実や歴史に付随するものと捉える。
保守の人々は昔からいた。しかし、本書は、現代において「保守」を名乗る層の中に、「極端にレベルの低い人たちが混じって」おり、保守を急速に劣化させている、と切り込んでいる。「極端にレベルの低い人たち」…それを本書は「B層」と呼び、「近代的諸価値を盲信するバカ」と辛辣に評する。本書が挙げるのは、例えば次のような人たちだ。
・なにか事件があれば脊髄反射のように「在日の仕業だ!」と騒ぐ
・意見が合わない相手に「共産党だ」「コミンテルだ」とレッテル貼りをする
・中韓の反日プロパガンダに過敏に反発する一方で、反中反韓プロパガンダにはコロッと騙される
・メディアが用意した「正論」にしがみついて思考停止する
本書によると、B層とは、2005年9月の「郵政選挙」の際、自民党が広告会社に作成させた企画書に登場する概念。この企画書では、国民がA層、B層、C層、D層に分けられており、「具体的なことはよくわからないが小泉純一郎のキャラクターを支持する層」と規定している。そして、この層に向けて「改革なくして成長なし」「聖域なき構造改革」といった分かりやすいキャッチフレーズが集中的にぶつけられ、功を奏した。
ちなみに、「構造改革をポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるか」をX軸に、「IQが高いか、低いか」をY軸にとって、「構造改革にポジティブ、かつ、IQが低い」のがB層。主婦層や若年層、シルバー層が中心とされている。「構造改革にポジティブ、かつ、IQが高い」A層は財界勝ち組企業、大学教授、マスメディアなど。「構造改革にネガティブ、かつ、IQが高い」C層は構造改革抵抗守旧派。「構造改革にネガティブ、かつ、IQが低い」D層は失業者など、すでに構造改革に恐怖を覚えている層、となっている。
前述のとおりIQが低いとされるB層は、価値判断ができないため、気分で動く。しかし、無知ながら、新聞やテレビニュースなどから熱心に情報を取り込み、自分が合理的かつ理性的だと悦に入っているのがやっかいだとしている。そんなB層が日本を支配する姿を、三島は予言していた。日本を取り戻すには、今こそ三島が固持した「保守」が正しく理解される必要があるようだ。
本書では、日本の将来を憂いた三島の記述や警鐘が随所で紹介している。さまざまな価値観が錯綜して、私たちを翻弄する現代。三島の予言から、自分が取るべき立ち位置が確認できるかもしれない。
文=ルートつつみ