いま、目が離せない「当事者マンガ」5選! “現役の看護師”が命の崇高さを描く作品も…!
公開日:2016/2/10
マンガというものは、あくまでもフィクションだ。そこで描かれるのは、作家が頭のなかで生み出した世界。しかしながら、なかには非常に“リアリティ”を感じてどうしようもない作品もある。その代表例とも言えるのが、「当事者マンガ」ではないだろうか。作者自身の実体験や職歴、病歴などを活かし、それらのエッセンスを作品へと注ぎこむ。そうして生み出されたものは、読み手に気づきや感動を与えるのだ。今回は、そんな当事者マンガをいくつかピックアップしてみよう。
箱根を舞台に、駅伝に青春を捧げる少年少女の姿を描いた『かなたかける』(高橋しん/小学館)※『週刊ビッグコミックスピリッツ』にて連載中。1巻は3月30日発売予定。作者の高橋氏は、大学1年生のときに、箱根駅伝で最終10区を走った経験があるのだとか。その経験が活きているのだろう、転校生・かなたが走るシーンはとてもキラキラしており、「走ることの楽しさ」が純粋に表現されている。
“メイクで生まれ変わること”をテーマにした『リメイク』(六多いくみ/マッグガーデン)も、当事者が描いた作品だ。元美容部員だったという六多氏が描く本作には、正しいアイラインの引き方やマスカラの塗り方など、その経歴を活かした豆知識が随所に散りばめられている。
なかには、悲痛な経験を元にしたものもある。たとえば、『いちえふ 福島第一原子力発電所労働記』(竜田一人/講談社)。タイトルからわかる通り、本作は福島第一原子力発電所で働いていた元作業員による実録ルポコミックだ。現場での手続きや作業員同士のやり取りが淡々と描かれているため、かえってそれが生々しさを生んでいる。また、産婦人科医院で看護師見習いとして従事した経験を活かした作品が『透明なゆりかご 産婦人科医院看護師見習い日記』(沖田×華/講談社)。冒頭で、「日本人の死因1位は中絶だ」と描いている通り、その内容はあまりにもショッキング。しかし、産婦人科医院で見たことをそのまま伝えようとする、沖田氏の強い想いが伝わってくる。
このように多々ある当事者マンガのなかで、いま注目を集めているのが『リヒト 光の癒術師-ハイレン』(明/コミックスマート/小学館クリエイティブ)だろう。著者はなんと“現役”の看護師なのだ。
本作の主人公・ティナは、傷ついた人々を助けだす「癒者(いじゃ)」を目指す少女。誰よりも夢に真っ直ぐで一生懸命だが、少しドジで抜けているところもあり、いつも周囲に迷惑ばかりかけている。しかし、患者を救いたいという想いは本物。読み手はティナを通して、「命とはなにか」を何度も考えさせられることになる。このあたりは、やはり現役看護師としていくつもの命と向き合ってきた明氏の経験が活かされているのだろう。「命は絶えたら、次なんてないんだ」「治すのは患者自身で、私たちは手助けしかできない」など、作中には看護師ならではのセリフも光る。
そんな本作の第3巻が2月10日(水)に発売された。最新巻での見どころは、なんといっても、癒者ティナと医師ユリウスとの出会いだろう。ユリウスは、患者の生き死にを身分で判断する男。発作で苦しむ老婆を見て、「救うだけムダだ」と言い放つ、なんとも冷酷な人間なのだ。それに対し、ティナは猛反発をする。年齢やお金は関係ない、人はここにいるだけで素晴らしい。命はそんなに軽いものじゃない――。真っ向から対立するふたりが出会ったとき、はたしてどのようなドラマが動き出すのか、いまから楽しみでならない。
ぼくらの知らないことをリアルに描き出す、当事者マンガ。ぜひ、未知の世界へ足を踏み入れてみてはいかがだろうか?
文=前田レゴ