AV女優が書く小説はどこまでが実体験なのか?【紗倉まな×DJあおい対談】
更新日:2017/11/16
「絡み、フェラ、乱交、オナニー……。めんど、くさ」――。人気AV女優、紗倉まなの処女小説『最低。』の一節である。年齢や境遇がばらばらな4人のAV女優が登場するオムニバス作品だが、どうしても4人がすべて、紗倉自身に思えて仕方がない。筆者は女性だが、感情の発露があまりにも生々しく、思わず目を背けたくなるほどだった。
一方で彼女たちは、愛する男性と向き合う一人の女性でもある。AV女優という仕事との間で揺れ動く様子は、まさに“女の業”を感じさせる。AVという極端な世界に身を置く彼女たちの言葉は、果たして紗倉自身の経験に基づくものなのだろうか。
今回はブログやツイッターで読者の悩みを真正面から受け止め、人気を博しているカリスマ恋愛アドバイザー・DJあおいをゲストに迎え、紗倉の恋愛観を分析してもらった。



ダメ男にばかり惹かれてしまう
――『最低。』は恋愛の描写がすごくリアルですよね。紗倉さんご自身はどんな恋愛を?
紗倉:恋愛経験、ほとんどないんです。数少ない中だと、いわゆるダメ男にばかり惹かれてしまって。普通の恋愛をして幸せになりたいのに、普通の恋愛ができない…。
あおい:ダメ男って、ツッコミどころがいっぱいある人なんですよね。ツッコミどころがあればあるほど、女性は好きになる。母性で恋してるんですよ。わたしがいないとダメ、っていう。
紗倉:別れるのも大変で、後半は地獄です。なんで一緒にいるのか分からなくなって、相手の嫌いなところをメモ帳に書いて、どうにか嫌いになろうとしたり。ソクバッキーなので、携帯も見ちゃうし。
あおい:見るんじゃなくて、「見ちゃったよ」と言うだけで効果があるんですよ。実際に自分の手を汚しちゃダメです。言葉でほのめかすほうが、「どれを見たんだろう…?」と不安になるものです。
――一章の主人公、彩乃の言葉にもありますが、AVのお仕事をされていて、実際に「めんどくさ」と思う場面はありますか?
紗倉: あります、あります!
あおい:どういうときに思うんでしょう?
紗倉:これやりなさい、あれやりなさいと言われると、めんどくさ、って思っちゃいます。普段からめんどくさがりで、料理とか掃除とか、洋服を買いにいくことすらめんどう。家でルンバ飛ばしてます(笑)。
書くことは恋愛に似ている
紗倉:いろんな人から、「胸が張り裂けそうなほどツラい恋愛をしたほうがいい」って言われるんです。でもどうやったら、そんな人と出会えるんでしょうか…。
あおい:いまは恋愛お休みモード?
紗倉:“求めないほうがいい出会いがある”説を信じて、求めないようにしてます(笑)。
あおい:文章を書いているときって、楽しいじゃないですか。いまはきっと、それで十分なんですよ。
――恋愛に似たアドレナリンが出る感じですか?
紗倉:似てるかもしれないです。恋愛しているときのような、ときめく感じ、あります。
あおい:苦しいときもありますよね。でも後になって思い返すと、楽しかったと思う。
紗倉:書きながら、どれだけ過去の恋愛を美化しているかが分かりました。当時はドロドロだったのに、いま思うとキレイな思い出ばかりで。
あおい:一回忘れると、どうしても美化しちゃいますよね。でも美化しても問題がないから、美化するんだと思います。その恋はちゃんと終わっている、ということです。
紗倉:すごく(笑)。あおいさんは論理的に説明してくださるから、言葉に説得力があります。
体から入る関係は大アリ
――どんな男性が理想ですか?
紗倉:仕事を理解してくれる人がいいです。あとは「おっぱい好きなんだよね」とか、あっけらかんと言っちゃう人もいいかな。容姿は気にしないです。カッコいいな、とは思っても、好きにはならないです。
あおい:見た目よりも相性ですよね。
紗倉:ハイ。声とか仕草とか。キスしたときの感じとか。
あおい:キスって本能なんですよ。女性はキスで“この人でいいのか”判断して、男性はキスで“俺のものだ”と思う。
――体から入るのはアリでしょうか?
紗倉:大アリです。キスをしたり体を重ねたりすることで、「この人だったんだ」と確信したり。「この人しかいない」と思っていたのに、キスをしたら冷めちゃったり。身体の相性って、プロフィール項目みたいな感じだと思うんです。
――テクニックよりも相性が大事?
紗倉:テクニックは全然なくていい。逆に上手な人は引いちゃいます。「いままで何してきたの!?」みたいな(笑)。
あおい:気持ちから入ると、「プラトニックのままのほうがいいのかな…」みたいな葛藤が出てきますよね。それだったら体から入ったほうがいいんじゃないかな。
紗倉:でも、プラトニックな感じも好きです(笑)。気持ちだけで好きになっている時間も、それはそれでいい(遠い目)。
5年後を見据えたツイート
――お二人ともTwitterが大人気です(DJあおいは2アカウント合計で34万、紗倉まなは17万のフォロワー)。
紗倉:あおいさんはすごいです。140文字であんなにご自分を表現できるなんて。わたしはネガティブなツイートをしだすと止まらなくなるし、気をつけようと思うと超ポジティブ女子っぽくなるし…。
――ネットの反応は気にされるほうですか?
紗倉:すごく気にします。メンタルが豆腐なので(笑)。「世の中のすべての人にこう思われているんだ…」という錯覚に陥ります。
あおい:紗倉さんは裸になって全部をさらけ出しているから、批判も100%受けるわけですよね。それって大変ですよ。DJあおいは正体不明ですからね。
紗倉:さらけ出しすぎちゃってます。足が臭いとかも(笑)。秘密があるほうが「どういう人なんだろう?」って興味がわくので、魅力的だと思います。
――SNSをやる上で、心掛けていることはありますか?
紗倉:5年後の自分が見ても、後悔しない内容かどうか。なので、iPhoneのメモ帳には愚痴がたまってます(笑)。
あおい:マイナスな感情って、一番大きなエネルギーなんですよね。それを文字にして書きためておくというのは、賢い。こうして小説にもなったわけですから。読むと、可愛いだけじゃないっていうのがすごく分かります。
――『最低。』には、どこまで紗倉さんの本音が含まれているのか、気になります。
紗倉:自分より遠いキャラクターのほうが書きやすかったです。一番近いのは一章の主人公で彩乃という女の子なんですが、自分と向き合うのはけっこう怖くて。実体験を言葉にすると、幼稚だなって思うことが多かったので、想像で書くほうが合ってるのかも。
――チック症の女の子(四章の主人公・あやこ)が出てきますが、わたしも悩んでいたので、描写が本当にリアルで驚きました。
紗倉:わたしもそうだったんです。高校生くらいまで指しゃぶりしていました。
――ストレスや緊張で症状が出ますよね。
紗倉::友だちにもチック症の子がいて、からかわれたりしていたんですが。でもその子を見ていると、「いまイヤなんだな」「うれしいんだな」といった感情が伝わってくるのが、わたしはいいなぁと思っていて。そういうのを思い出しながら書きました。
――センシティブな内容も臆せず書かれていて、カッコいいなと思いました。
あおい:読む前と読んだ後で、紗倉さんのイメージががらりと変わりました。すごく深いですよね。恋愛よりも、本を書いてほしいですよ。作家としての紗倉さんをもっと見たいです。
紗倉:それを聞いて、いまこの瞬間、恋愛がどうでもよくなりました(笑)。
あおい:それはそれで、よかったのかどうか、っていうね(笑)。

紗倉まな
さくら・まな●1993年3月23日、千葉県生まれ。工業高等専門学校在学中の2012年にSODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。2015年にはスカパー! アダルト放送大賞で史上初の三冠を達成する。テレビ出演や雑誌の表紙グラビアなどでも活躍し、『週刊プレイボーイ』(集英社)、『messy』(サイ ゾー)でコラムを連載中。著書に『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)がある。
DJあおい
でぃーじぇー・あおい●謎の主婦、兼恋愛アドバイザー。Twitterで恋愛観などを独自の感性で綴ったツイートが話題を呼び、一般人としては異例の計34万人のフォロワーを獲得(2アカウント合計)。ブログ「DJあおいのお手をはいしゃく」は月間600万PVを誇る。著書に『じゃあ言うけど、それくらいの男の気持ちがわからないようでは一生幸せになれないってことよ。』(ワニブックス)がある。
◆近刊紹介
取材・文=尾崎ムギ子
写真=内海裕之