熱愛発覚・妊娠3カ月! 俳優・中尾明慶が処女作『陽性』で描いた“芸能界のウラ事情”がリアルすぎると話題

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/16


『陽性』(中尾明慶/双葉社)
『陽性』(中尾明慶/双葉社)

浮いた噂のひとつもなかったアイドルに熱愛発覚。しかも、まさかの妊娠3カ月。お相手は駆け出しの若手俳優…こんなスクープが出たら、芸能マスコミも一般社会も、思わず飛びつかずにはいられないだろう。個性派俳優の中尾明慶が初めて書き下ろした小説『陽性』(双葉社)は、芸能界をゆるがす大スクープを題材に、芸能界という特殊な世界の裏側を舞台にした異色のミステリーだ。

生理が来ない…極秘で入手した妊娠検査薬で「陽性」の反応が出たトップアイドルの上原なつきは、芸能界で築き上げてきた地位がガラガラと足もとで崩れ落ちる音を聞く。相手はかつて映画で共演した駆け出しの俳優・溝口翔太。うれしいはずの妊娠は、誰にも悟られずひそかにつきあってきた2人に訪れた突然の試練だった。CMの打ち切りや今後のドラマの話もキャンセルを覚悟せねばならない事態に、当然、事務所は大反対し、中絶が可能な妊娠4カ月までに極秘に処理しようと外堀を埋めていく。一方、「ティンカー・ベル」と名乗る謎のLINEアカウントがなつきのライバル女優の桜木アヤノに妊娠の噂をたれ込んだことで、なつきと翔太はさらなる窮地に追いやられる。芸能マスコミや裏社会に通じたアウトローも巻き込んでの騒動が膨らむ中、果たしてなつきは子どもを産むのか?産まないのか?

物語はなつき、翔太、アヤノ、マネージャー・松尾など、妊娠騒動に関わった人々による一人称の告白ですすんでいく。それぞれが顛末を振り返る証言によって次第に多面的に現れてくる真相。一体、なつきを追いつめる「ティンカー・ベル」とは何者なのか? 芸能人という特殊な立場だからこその出口のなさと緊迫感の続く構成はスリリングで、あっと驚くラストの展開まで目が離せない。

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なにより、芸歴が長い著者だからこそのリアルすぎるほどリアルな芸能界の心理戦、かけひきの描写がたまらない。昨今、女性タレントとミュージシャンの不倫騒動や、国民的アイドルグループの解散騒動など、芸能界の裏側にどんな力学が存在するのかという点に、図らずも一般人からの興味関心が集まっているが、この小説の登場はまさにタイムリー。「なるほど芸能界ってこうなってるのね」と、現実とだぶらせながらの野次馬的覗き見感覚が妙に味わい深く楽しめる。

ちなみに著者の中尾明慶は、実はできちゃった婚の体験者でもある。この小説のあまりのリアリティには、思わず自身の体験もいきているのでは…!? と勘ぐりたくもなる。しかし中尾は「執筆開始から約1年3カ月。出版社から10回以上も書き直しを指示され推敲しました。小説を書き始めたのは命の重さを発信したかったから」と話している。

ま、その真偽は別としても注目作なのは間違いない。なにしろ、小説としては異例の初版1万部と版元の双葉社も強気で、「俳優という仕事柄、文章には独自の世界観があり、描写と構成力はかなり秀逸。一人の作家として高く評価している」と編集をつとめた編集局部長もコメント。「本屋大賞も狙う」と意欲をみせている。

著者が尊敬する明石家さんまも「まさかの面白さ」と推薦する本書。芥川賞作家となった又吉直樹、ジャニーズの加藤シゲアキと、このところ話題の芸能人作家が続々と登場する中、新たな才能のデビューは見逃せない。

文=荒井理恵

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