「隠しフォルダのエロ画像」よりも心配すべきこと ブログ、SNS…、死後あなたの書き込みはどうなる?―古田雄介さんインタビュー【後編】

社会

更新日:2016/3/3

 死がインターネットで学べるとはどういうことかを伺った【前編】に続き、【後編】ではほとんどの人が「死」はいつかやってくる遠い日のこととして毎日を生きているが、その日は思いもよらないタイミングで突然やってくる、ということを提示した『故人サイト』を通じ、その際に残されるデジタル製の「遺品」をどうしたらいいのかについて聞いた。

【前編はこちら】死者が遺した「故人サイト」にある生々しさ―古田雄介さんインタビュー


古田雄介
ふるた・ゆうすけ 1977年、愛知県名古屋市生まれ。ゼネコン、葬儀社、編集プロダクションを経てフリー記者となる。著書に『中の人 ネット界のトップスター26人の素顔』(KADOKAWA)、『ウィキペディアで何が起こっているのか 変わり始めるソーシャルメディア信仰』(山本まさき氏との共著/オーム社)など。現在、産経デジタル「終活WEBソナエ」で「死後のインターネット」を連載中。

死人に「生体指紋認証」は無効!

 インターネットにアクセスするためにはパソコンやタブレット、スマートフォンなどが必要となる。その中には文書や書類、メモ、音楽、画像、動画、ゲームなど様々なものが格納されている。その持ち主が死んでしまったら、その中身にアクセスすることすら困難になる可能性が近年高くなっていると古田さんは指摘する。

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「普段使ってるスマホに貴重な連絡先や遺言、ビデオメッセージなどを残して死んでしまったという事態が起こると、遺族は非常に困るわけですよね。パソコンやガラケーは詳しい人やプロに頼めばある程度まではデータを吸い出せますが、スマホやタブレットはここ10年くらいでセキュリティのレベルが格段に上がり、パスワードを知らないとまずアクセスできません。そして最近増えている『指紋認証』ですが、これは生体、つまり生きている人でないと電気信号が発生しないので、死んだ人の指をいくら当てても開きません。メーカーやキャリアにお願いしても、パスワードを解除してくれることはまずありません。昔はアドレス帳や年賀はがきから連絡先を知ることができたんですが、最近はすべてスマホの中という人が多いんですよ」

 パスワードを解除しようと心当たりのある数字を押していると、数回でいきなりシャットダウン、最悪の場合はデータが初期化してしまう事態も発生する。そうならないためにはアナログな対策をしておくべき、という古田さん。

「家族のためを思うなら、年に1回でいいからブログやSNSのID、紙などが発行されないネットバンクなどをリストにして紙に書き、預金通帳などと一緒のところに置いておくといいでしょう。人が死ぬと遺族はまず普通は預金通帳やパスポートを見つけようとしますからね。アナログなものと一緒に発見して、気づいてくれるところまで持っていける対策をしておけば大丈夫だと思います。またFXや先物取引などをスマホの中だけでやり取りしていたりすると、知らない間に遺族がとんでもない負債を抱えてしまうこともあります。紙にパスワードなどを書いて残しておくのは危険といいますが、死後のことを考えてリスクと将来の悲劇をいったん天秤にかけてみてもいいかもしれないですね」

 また家族にどうしても見られたくないものについては、普段使い以外のデバイスに格納し、パスワードなどは秘密のまま墓まで持っていけるような状態にしておくといいそうだ。

「秘密のブログや浮気の証拠など、どうしても家族に隠したいことは絶対に推測されないパスワードでロックしたサブのスマホやタブレットにためこんでおくのが効果的だと思います。ただまあ、エロ画像とかそういうのは本人が勝手に気にしているだけのものなので、この際諦めていいかも(笑)。残したいものをきちんと遺族に伝えてナビゲートしておけば、遺族はそれに従ってやるものなので、そこから逸れた所に隠すくらいでよいでしょう。攻撃は最大の防御なり、ですよ(笑)。死後のデジタル遺品に関するトラブルは誰でも起こりうることですから、悲劇的なことを避けるため最低限のシミュレーションはしておいたほうがいいです。日本の『個人情報保護法』は生きている人のためのもので死んだ人には適用されないですから、死後のことを考えるなら法に頼らず、自分でなんとかしないといけないんです」

 ちなみに古田さんは「僕は家族に過去のログとかを調べられても別にまあいいかと思っていて、お金関係は紙で残しているので、正直何の準備もしてないですね。パソコンのどこに何があってというのは普段から家族に伝えていますし、スマホのパスワードも知られているから、それで十分かなと」とのこと。自分だったらどうするか、一度考えておくことをお勧めする。

ネット上に残されたものは、いったい誰のものなのか?

 2016年1月15日早朝、長野県でスキーバスが横転し、乗員・乗客15名死亡、乗客26名が負傷する痛ましい事故が起きた。この事故で犠牲になった方の顔写真がFacebookやブログから新聞紙面に転載されたことの是非を巡り、様々な意見が飛び交った。所有者が亡くなった後にネット上に残されたものは、いったい誰のものなのだろうか?

「ブログなどで詩や批評などを書き、それが社会的に価値のあるもの、または家族にとって主観的な価値のあるものだったら遺産として取り扱われるんですが、SNSなどのアカウントはサービスの利用規約によるんです。最近のサービスだと、利用者が亡くなったら『承継』といって、そのアカウントを◯親等までの遺族に引き継げますよ、という取り決めを作っているところが増えています。しかしニフティなど昔ながらのプロバイダーだと『一身専属性』といって、利用者と契約したものなので亡くなったらその権利は誰も引き継げない、という契約になっているんですね。ただアカウントを削除するとか契約解除ということはできると思いますし、遺族が保存するためにメールの内容をコピーするなどは、現実問題として咎められないでしょう」

 利用規約は入会する際にきちんと読んでいないという人も多いと思うが、今一度どんな取り決めになっているのか確認する必要がありそうだ。

「2014年8月、アメリカのデラウェア州で故人が利用していたインターネット上のアカウントやストレージなどに残しているコンテンツには相続権があり、相続人がアクセスできるという州法が成立しましたが、この州法は一身専属性との矛盾をはらんでいるので、どれだけ実効力を持つかわかりません。結局、それぞれのWEBサービスの規約が判断の軸になるのは今後も続きそうです」

 法律まかせでなく個別に判断する姿勢が必要なのは、相続に限ったことではないという。

「現状はネットに関する大事件があっても、既存の法律が充てがわれるので、インターネット上で公開されている情報は本などの出版されたものと同じように扱われるんです。引用の範囲なら無断で取り扱える。先のバス事故の例でも、新聞は報道目的での使用ということで、過去に卒業アルバムや友人のプリクラを使用したのと同じ感覚で載せたんだと思います。実際、過去にも被害者の近影をFacebookやTwitterからとった報道は普通にありましたから。でも、今回は犠牲者が多く、潜在的に皆が思っていた『こういう使い方ってどうなの?』という思いを喚起させたところがあります。そして、その思いは感情的に理解できる。いくら慣習上、法律上問題なくても、感情的には納得できない部分があれば、その都度見直さなければいけない。今後はそういう判断が求められる場面が増えてくると思います」

 誰もがアクセスでき、見ることのできるコンテンツだからといってそれがすなわち公のもの、とは決められないと古田さんは捉えているという。

「私はSNSをプライベートで使っている人は『半パブリックな存在』だと現時点では考えています。構造上はパブリックですが、本人はプライベートなものとして使っている。だから、パブリック側だけの論理で事を進めるのは良くないと思うんです。この本に関しても、サイトに残っている連絡先を片っ端から調べて連絡を取り、家族や関係者からNGをいただけば掲載を見合わせ、連絡がない場合は数カ月後に何度かアプローチして、それでも連絡がない場合はパブリックなものとして掲載させていただきました。自分としてはそれが一番フェアではないかと。そして、読んでいただく側にも、そうしたスタンスを明確にしないと不安や不審を与えてしまう。自分なりに線引きして、それを表に出して、線の正当性を判断していただく。そうすれば、納得してくれたり、線引きが間違っていると指摘してくれたりする。少なくともグレーな感じのままではなくなるわけです。そういう意味で、今回のバス事故の報道のなかでは、引用元を明記した朝日新聞のスタンスが一番共感できました」

 今回の事故は、自分の画像や書いたものが死後勝手に使われるという気持ち悪さに多くの人が気づいたきっかけとなった。こうしたことがあると新しいルールや法律が作られるのだが、今後どうなるのか注視していきたいところだ。

死んだらネット上のサービスはどうなる?

 ちなみに多くの人が利用しているSNSなどには、以下のような仕組みが用意されている。ご存じだろうか?

Facebookには「追悼アカウント」があり、遺族が連絡して設定することができる
https://www.facebook.com/help/1506822589577997/

Googleにはユーザーが一定期間アカウントを使わなかった場合、受益者を指定しておくなど生前に設定できる「アカウント無効ツール」がある
https://support.google.com/accounts/answer/3036546?hl=ja

Yahoo!にもユーザーが生前に設定しておける、死後に挨拶のメールを送るなどの「Yahoo!エンディング」がある
https://ending.yahoo.co.jp
※2016年3月31日サービス終了

Twitterは生前に死後の設定はできず、遺族が申請するが、死亡の事実を伝えるための書類を用意するなど手続きのハードルは非常に高い
https://support.twitter.com/forms/privacy

「Facebookに『追悼アカウント』があるなんて、普通に使っていたら知らないですよね。Twitterも窓口経由でやると大変ですから、アカウントとパスワードを遺族に伝えて消してもらうという方法がいいと思います。いろいろな統計を見ると、半分以上の人は自分の死後にインターネット上に痕跡を残したくない、死んだら一緒に抹消してほしいと思っているそうです。若い世代になると痕跡を残したいという人は多少増えるんですが、それでも抹消してほしい人のほうが多い。とにかく死に方って、誰も完璧には予想できないものです。また余命いくばくもないという状況になればある程度覚悟できると思いがちですが、意外と心のゆとりがなくて遺産整理や終活は難しくなります。だからある程度は準備をしておくけれど、『死んだらしょうがないよね』という覚悟のもと、ネットやデジタル機器を利用することが必要になってくると思います。この本がそうした行動のきっかけになれば、嬉しいですね」

『故人サイト』は、自分が死ぬ日は自分で決められないものであり、いつ訪れるわからないXデーまでどう生きるのか、ということを「死」の側から強烈に照らし、問いかけてくる。それは自分だけではなく、周りの人たちも含めた問題だ。いざという時に困らないため、本書の「死に様」から学んでみてもらいたい。もちろんその際はフラットな態度で、そして真摯に向き合って。

【前編はこちら】死者が遺した「故人サイト」にある生々しさ―古田雄介さんインタビュー

取材・文=成田全(ナリタタモツ)