おかざき真里の新境地にして意欲作! 最澄×空海 ふたりの天才を描いた仏教マンガがスゴイ!

マンガ

公開日:2016/2/28


『阿・吽』(おかざき真里/小学館)

サプリ』や『&-アンド-』などで恋愛や仕事のはざまで心が揺れ動く女性の心情をこまやかに描いてきたおかざき真里が、新境地ともいえる仏教マンガ『阿・吽』(小学館)を世に送り出した。

『月刊!スピリッツ』(小学館)にて連載されている『阿・吽』は、単行本第1巻が2014年10月に発売(最新刊は3巻)。京都老舗出版社の阿吽社の監修・協力のもと、日本の仏教だけでなく時代を変えた最澄と空海の生き様を圧倒的なスケールで描いている。この二人の天才、比叡山延暦寺の開祖である最澄と、弘法大師としても知られる空海の名を、誰もが一度は聞いたことがあると思う。「天台宗が最澄で、真言宗が空海で……あれ、逆だっけ?」なんて、覚えるのに苦労した人もいるのではないだろうか? ちなみに、わたしは頭文字をとって「天才(天最)の最澄、真空パックの空海」なんて罰当たりな覚え方をしていた。それはさておき、『阿・吽』がどんなストーリーか気になる人も多いだろう。最澄と空海、名前は知っていても意外と知られていないその半生。おかざき真里の美麗なイラストで描かれる、二人の天才の物語を紹介していこう。

 物語の舞台は、奈良から京都への遷都がおこなわれた平安初期。権力をもった寺院は腐敗し、民は餓死やタタリで死に追いやられ、政の世界は権力争いで乱れていた。そんな時代に生まれた最澄の幼少期から、物語は始まる。幼いころより群を抜いた才を持っていた最澄は、彼の母によって当時のエリートコースであった国分寺に入れられ、出世の道にのる。一方、真言宗の開祖となる空海もまた、幼いころから他とは違っていて、類まれなる頭脳の持ち主であったため、学問の道に進んでいた。しかし、最澄は寺院の僧侶たちの堕落を知り、空海は学問では自分を満たすことはできないと、成長した二人は出世コースから外れることを選択する。

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 主人公である最澄と空海は『阿・吽』の中で、水と炎のように対照的な存在だ。マジメで理屈に偏りがちな泣き虫の最澄と、満たされない心をどうすることもできず激しい苛立ちをみせる荒々しい空海。気質の違う二人の天才が、己の求める道を模索する姿が描かれる今作の一巻冒頭にはページいっぱいにこんな言葉が描かれている。

生れ生れ生れ生れて生の始めに暗く、
死に死に死に死んで死の終わりに冥らし。
弘法大師 空海

 これは、空海が書いた『秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)』の中の言葉だ。一巻をすべて読み終わると、不思議とこの一巻冒頭に書かれた言葉が頭の中をよぎり、やけに胸にしみてくる。『阿・吽』という作品は絵の見せ方もさることながら、言葉や文字の見せ方も特徴的で、そこに二人の天才の葛藤や絶望、人間の業といった要素をのせてくるのだから、ぐっと作品の世界のなかにひきこまれ、魅せられる。

 飢餓や流行り病、人の生が儚い時代の物語であるために血の流れるシーンも多いが、せめて二巻までは読んでほしいと思う。一巻は二人の天才がスタートラインを見つけたいわば序章、二巻では「ああ、私は愚か者の中で最も愚か、狂人の中でも極狂、クズ以下のただの生きもの、最低最下の最澄です。――最澄「願文」より」という最澄の言葉から始まり、物語の熱量はどんどん増していくからだ。ちなみに、三巻で最澄と空海がシンクロするシーンは、正直震える。……やっぱり三巻全部読んでほしいマンガだ。

文=ナツメ