独白本に『電波少年』裏話も! 芸能界復帰した元猿岩石・森脇和成に学ぶ“流され力”
公開日:2016/2/26
お笑いコンビ「猿岩石」の名を聞けば、超人気番組『進め!電波少年』(以下、『電波少年』)やミリオンヒットした『白い雲のように』など、90年代を懐かしむ人も少なくないだろう。そして、元猿岩石の有吉弘行氏といえば毒舌で一世を風靡し、今や人気芸能人の一人として数えられる。一方、10年前に芸能界を引退したもう一人の元猿岩石・森脇和成氏は一般人として生活を送っていたが、昨年芸能界への復帰を果たし、多くの人を驚かせた。
2月26日に発売となった森脇氏初の独白本『もしかして、崖っぷち?』(KADOKAWA)には、他人に影響され続けた高校時代や元相方の有吉弘行氏との上京物語、華々しい芸人時代から芸能界引退など、森脇氏の波乱万丈な半生が余すところなく綴られている。同書に込められた想いについて、著者本人に話を聞いた。同書では自身を「チャランポラン」と評しているが、実際にお会いすると、いたって穏やかな印象を受ける。
「自分の人生が“普通ではない”ということは気づいていたのですが2015年の『しくじり先生』出演をきっかけに人生を振り返ってみたら、ちょっとおもしろかったので、調子に乗って出版しました(笑)。帯にも書いてあるのですが、まさに『白い雲のように生きてみたらこうなった』って感じで、周りに流されて生きてきたんです」
「本来、白い雲のようにという歌詞には、もっとかっこいい意味が込められてるんですけどね」と笑う森脇氏。また、飽きっぽい性格と語る彼には、ひとつだけ少年時代から続けていることがあるという。
「ずっと『週刊少年ジャンプ』は読んでますね。今41歳なんですけど、僕らの世代はそういう人が多いと思いますよ。昔みたいに端から端まで熟読はしてないけど『ONE PIECE』はずっと読んでます。さすがに海賊になろうとは思いませんでしたが、タバコを辞めるときは“サンジがタバコを吸う姿がかっこいいんだよな~”と思って、やめるのを躊躇したほど。今もサンジを見るとタバコを吸いたくなりますよ(笑)」
高校時代は『ビー・バップ・ハイスクール』(講談社)のヒロシに憧れてリーゼントをキメ、『柔道部物語』(講談社)に影響されて柔道部に入部などなど、森脇氏にとって漫画は青春のバイブルだったという。同書には、彼の貴重な(?)リーゼント姿も収められている。
「影響されること自体は悪いとは思わないんですけど、この飽きっぽさが問題ですよね。飽きるとすぐに他のものに目移りしちゃって、今まで積み上げたものを何の躊躇もなく捨ててしまうんです。流行りの服が変わるくらいな感覚で、人生も仕事も変えてるような気がします」
地元・広島での圧接工時代から、猿岩石としてユーラシア大陸を横断後、アイドルなみの人気を誇ったのち、芸能界を引退。飲食店を経営するも立ちゆかず、結婚を機にサラリーマンに転身、そして離婚からの芸能界復帰……。常に違う場所に身をおいているのだ。
本書には『電波少年』時代のユーラシア大陸横断中の出来事についても、第ニの章「猿岩石だった頃」で語られている。ヒッチハイク中の日記は、以前『猿岩石日記』(日本テレビ放送網)という一冊にまとめられてベストセラーにもなったが、この『もしかして、崖っぷち?』には、日記にはしたためなかったウラ話も垣間見ることができる。
そのなかには、ヒッチハイク企画終了にもつながりかねないエピソードも含まれている。同企画には、猿岩石のどちらかがギブアップすれば終了というルールがあったが、森脇氏、有吉氏、双方譲らず意地のみで旅を続けていた。旅のツラさがピークに達したインドの夜、“ギブアップを宣言せずに日本に帰る”ために、2人はある計画を立てるが、みなさんご存じの通り2人の旅はゴールのロンドンまで続くことになる。その作戦の詳細と失敗については、ぜひ同書を読んでもらいたい。
また、当時の放送を観ていた人にとっては懐かしさを感じるであろう、彼らのアルバイト生活も綴られ、まるで海外アルバイト体験記を読んでいるような独特なおもしろさがある。なかでも印象的なのは、バンコクの飲食店「とん清」での皿洗い。
「旅の中で初めてしたバイトだったので、働いてお金をもらうことが本当にうれしかったですね。従業員のみんなも本当に優しくて、最終日には泣いて引き止めてくれたんです。それまでは早く終わらせたかった旅なのに、初めて“先に進みたくない”と思いました」
そして、さまざまな国をヒッチハイクで渡り歩き、“各国の働き方”と“日本人の働き方”の違いに気がついたという。
「僕たちが旅で回った国の人たちって、あんまり働かないんですよ。多分、日本人みたいにバリバリ働いていたのはドイツ人くらい。とくにアジアは、男がほとんど働かず、女の人が働いていたイメージが強いです(笑)」
今、『電波少年』が復活してヒッチハイク企画のオファーが来たら受けますか? という質問を投げてみると……
「もちろん、『電波少年』のことは生みの親だと思って恩も感じているので受けたいのですが、命の保証だけはしてほしいかな(笑)。当時は21歳で体力もあったし、もう40代だから途中で死ぬ可能性もありますからね。当時は無知だったから、危険な場所も歩けたし、テレビのウラ側を知らない新人にしか出せない面白さがあったと思うんです。ただ、『電波』だったら面白くしてくれる! という期待もありますね」
命の保証次第では、ヒッチハイクをする森脇氏をまた拝めるかもしれない?
このように、国内外を問わず、数々の“仕事”に就いてきた森脇氏だが、もっともつらかったのは「会社に行って、決まった時間に働いて、決まった給料をもらう」サラリーマンだった、という。
「営業マンとして勤務した輸入販売会社では、万年最下位でした。会社の人にはよくしてもらったのですが、自分の仕事のできなさが本当にしんどかったんです。営業はセンスなので、教えてもらうものでもないし、一番手応えがなかったですね。一般人になるまで、電車でサラリーマンの人たちを見ても量産型のザクのように思っていた部分があったんですけど、大きな間違いでした。実際になってみたら、サラリーマンは全員ガンダム! 本当にすごいですよ」
サラリーマンの厳しさを実感したことで、日々戦い続ける彼らにこそ、この『もしかして、崖っぷち?』を手にとってほしい、と森脇氏。
「世の中には“脱サラしてラーメン屋やりてえな”って思ってるサラリーマンの人がたくさんいるはずなんです。この本を読めば、飲食店経営に失敗したり借金をしても死ぬわけじゃないってことがわかると思うので、その人が次に踏み出すためのひと押しになれば嬉しいです」
『もしかして、崖っぷち?』というネガティブなタイトルながら、本を開けば「なんとかなる」と、ポジティブになれる同書。森脇氏の流され力を見習えば、人生がちょっとだけラクになれるかもしれない。
取材・文=谷口京子(清談社)