亀梨和也主演ドラマも好調! 活字ならではの『山猫』の楽しみ方とは?
公開日:2016/3/5
信念を持っているからぶつかれるし理解できる
2番目に置かれた作品「羊の叛逆」は、男子大学生・山野井の物語だ。サークルの先輩に誘われ、株価変動を予測するシステムの開発会社を立ち上げた山野井。しかしそのシステムは永久に完成する見込みがなく、出資金を募るための道具でしかなかった。罪の意識を抱いた山野井は、ついに仲間を告発しようとするのだが……。
珍しく犯罪者の側から描かれたこのエピソードは、タイトルにある「羊」のイメージが強く表れているという。
「羊というのは従順で群れをなしている生き物。この作品の山野井君がまさにそうですよね。優柔不断でイヤなことをイヤと言えないまま、ずるずると悪の道に染まっていってしまう。そんな彼の目から、決して群れない山猫の生きざまを描いてみたかったんです」
ラストを飾る「黒羊の挽歌」はやや異色作だ。主人公は山猫逮捕に執念を燃やす、警視庁の犬井刑事である。今回、彼が追いかけるのは、犯罪者たちにアイデアを授ける謎の男〈牧師〉。犬井はライバル関係にある山猫を利用しながら、牧師の正体に迫ってゆく。クライマックスで明かされるのは、犬井の知られざる過去だ。
「これは山猫がほとんど出てこない変化球的な作品。犬井については一度ちゃんと描いてみたいと思っていたんです。犬井と山猫は対極にあるようで、実はものの考え方が似ている。価値観は正反対ですが、通じ合うところが大きいんです。まさに好敵手ですね。犬井も山猫を信頼しているからこそ、利用することができるんですよ」
自分なりの価値観を持っているという点では、さくらも勝村も犬井と似ている。本書には「羊」としての生き方を拒否して、自分らしさを貫くキャラクターの姿が、鮮やかに描かれている。
「ただ感情に流されて生きるのではなく、しっかりとした信念を持っている人は、物語の中でも立ちますよね。人は信念があって初めて、ぶつかり合ったり、理解し合ったりできるんだと思います」
スパイ映画さながらのアクションを描く一方で、キャラクターの成長にもしっかりと向き合う『怪盗探偵山猫 黒羊の挽歌』。その面白さは従来の読者はもちろん、ドラマ版のファンもたちまち虜になってしまうだろう。
「小説の特徴は、読者が想像する余地があるところです。たとえば一口に『バー』といっても、どんな内装でどんな雰囲気なのかは、思い浮かべる人によって千差万別。自分だけの世界観を持つことができるのが、映像にはない小説の楽しさだと思います。この作品は活字ならではの『怪盗探偵山猫』。ぜひ楽しんでもらいたいですね」
取材・文=朝宮運河 写真=和多田アヤ
『怪盗探偵山猫 黒羊の挽歌』
ドラッグの過剰摂取によりラブホテルで命を落とした女子高生。その裏にはクラブ〈RAM〉を根城に暗躍する、非合法組織の存在があった。山猫と勝村が半グレ集団に戦いを挑む「羊の血統」に加え、詐欺グループの一員となった大学生を描いた「羊の叛逆」、山猫逮捕に執念を燃やす犬井刑事を主人公にした「黒羊の挽歌」を収録する短編集。悪党から金を奪い去る窃盗犯の活躍を描いた、ピカレスク・ミステリー第4作。
シリーズ既刊
不気味な自警団の正体とは?
『怪盗探偵山猫 虚像のウロボロス』
天才的なハッカー〈魔王〉が偶然手に入れた携帯番号は、謎の自警団〈ウロボロス〉に繋がっていた。山猫、〈魔王〉、〈ウロボロス〉、3つの正義が火花を散らすシリーズ第2弾。
都会の闇をスタイリッシュに描く
『怪盗探偵山猫 鼠たちの宴』
AV女優だった姉の死に疑問を抱いた女性が、バー〈STRAY CAT〉を訪れた。真相を追う彼女に迫る危機とは? 都会の「鼠」たちを描いた4つの物語。シリーズ初の短編集。