同性カップルにも訪れる老いや別れ…、その時法律はどのように守ってくれるのか

暮らし

公開日:2016/3/2


『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』(永易至文/太郎次郎社エディタス)

 東京都渋谷区で同性のパートナーシップ条例(正式な名前は「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」)が施行されたのは、ちょうど1年前の2015年4月のこと。LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの略)と呼ばれるセクシャル・マイノリティのカップルは、現在の法律では夫婦として入籍できない。だから公営住宅に入居できなかったり、どちらかが病気になっても家族として面会できなかったりと、異性カップルに比べると不便なことがとても多かった。でもパートナーシップ証明書は「2人を区がパートナーとして認めますよ~」ということなので、これがあれば区営住宅の賃貸契約やケータイの「家族割」、病院での面会などが叶うようになった。

 この条例は事業者や区民に配慮を求めるものであって、法的な強制力はない。それでも「自治体に関係を認めてもらえる! やった!」と、渋谷区や同様にLGBT認定制度を作った世田谷区に、引っ越しを考えたセクシャル・マイノリティのカップルもいるのではないだろうか? よかったね~末永くお幸せに! って、おい!(一人ボケ突っ込みすいません)。

「愛する2人はかくして結ばれました。めでたしめでたし」で終わるのは、多分童話の世界だけ。現実は「その後」のほうが、とても長く続くもの。ケンカしたり心が離れたり仕事や人間関係で悩んだり、親や自分が病気にかかったりと、「結ばれてからのその後」は、どのカップルにとっても山あり谷ありのはず。『ふたりで安心して最後まで暮らすための本』(永易至文/太郎次郎社エディタス)はそんな2人の暮らしを、今ある法的な制度を使って守る指南書だ。

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 どちらかの判断能力が低下してしまった時、財産管理や契約の代理はどうするか。同性婚が無理であるがゆえに考える、養子縁組はどうしたらいいか。セクシャル・マイノリティのカップルならではの「こんな時どうしたらいい?」について、著者の永易氏は行政書士目線でアドバイスしている。また「老い」は、誰にでもやってくる。いわゆる「男女の夫婦」だけの専売特許ではない、老後のお金や親の介護、葬儀やお墓などについて、その対策も併せて知ることができる。

 そしてラストでは、「別れることになったとき」について触れている。永易氏によると、「性的マイノリティから弁護士など法律家へ寄せられる相談のうち、もっとも多いのが、カップルや友人関係のこじれから、家族や学校、職場、ネットなどで『バラされる』――アウティングにからむ問題。カップル間でのDV問題やストーキングも深刻」なのだそうだ。

 仲間うちには関係をオープンにしていても、会社や家族には内緒という人もいるだろうし、当然違う人を好きになることもあるだろう。相手からDVを受けても女性の身体ならシェルターに駆け込めても、男性性を持っている場合は保護の対象にならない可能性が高い。そんな場合は「インタ-ネットで『LGBT 弁護士』などと検索し、理解のある弁護士にすみやかに相談したほうがいいでしょう」とあるが、できればその弁護士の名前や連絡先がわかれば、もっとよかったのではないだろうか。「男女の夫婦」ならトラブルが起きた際、家族や周りの友達からいとも簡単に「うちの場合」を聞き出せて、どうするかの参考にできる。でも日本人の約7.6%(2015年電通調べ)と言われるLGBTは、数の上ではやはりマイノリティ(「そんなにいるの?」と思う方もいらっしゃるとは思いますが……)。ましてや地方に行けば行くほどマイノリティ度が増すはずなので、信頼がおける地方の相談機関などの情報も、できればほしかった。

 とはいえ、セクシャル・マイノリティのカップルが暮らすうえで知っておきたいことが、ちりばめられているのは間違いない。

 またこの本には、自分やパートナーの情報や万一の時に連絡してほしい人・ほしくない人、金融資産や医療への意思表示が記入できる、「もしもに備える伝言ノート」が巻末についている。これは異性カップルでも存分に使える上に、自分自身の持ち物や気持ちの整理ができるので、「異性愛者の私には関係ないし~」と思わず(私だってそうだし)、見かけたら手に取ってみることを、パートナーを持つすべての人にオススメしたい。

文=玖保樹 鈴