ドラゴン・ツチノコからマイナーすぎる未確認生物まで! 世界のモンスターがこれ1冊で分かる大百科
更新日:2017/11/16
30年前に出会いたかった! というのが本書を読んでの率直な感想だ。
本書『モンスター大百科』(宮本幸枝/学研プラス)は、世界の恐ろしいモンスターたちを、カラーイラストとともに紹介したもの。誰でも知っているビッグネームから、「こんな奴がいたのか!」というマニアックなものまで、全101体を取り上げている。
オカルト関係のネタが大好きな当レビュアーだが、この歳になるとすっかりすれてしまって、なかなか素直にビックリすることができない。しかし、小学生の頃は妖怪やモンスターの百科を夢中になって読み耽ったものだ(そういえばあれも学研の本だったような……なんて罪深い出版社!)。
本書は全世界のモンスター情報を広くカバーしており、ビギナーの興味をしっかり受け止めてくれる安心の構成になっている。これを毎日ぼろぼろになるまで熟読し、ちょっとだけ家族に心配される。そんな微笑ましい小学生の姿が目に浮かぶようなフックに満ちた好著なのだ。
モンスターと一口にいっても、その内容はさまざま。本書では4つのセクションに分けて、世界のモンスターを紹介している。
第1章は「いる?いない?未確認モンスター」。世界にはまだ正体が明らかになっていない、未確認生物(UMA)が数多く存在する。「ビッグフット」「ネッシー」がその代表だろう。コンゴ共和国で目撃される「モケーレ・ムベンベ」、血を吸う怪獣「チュパカブラ」あたりの定番品はもちろん、「モンゴリアン・デスワーム」「スレンダーマン」「ニンゲン」などネット発祥の新興モンスターまでカバーしている貪欲ぶり。
わが日本からも「ツチノコ」「ヒバゴン」が紹介されており、この章を読むだけで世界のUMA博士になれてしまうぞ。
第2章は「幻想世界にすむ伝説のモンスター」と題して、神話や伝説、物語に登場してきたモンスターを扱っている。「ドラゴン」「サラマンダー」「ケルベロス」などの西洋ネタ、「麒麟」「帝鴻」といった東洋ネタの両方をカバー。
はっきりいって「ホントかよ!」とツッコミを入れたくなるものが多かった1章に対し、ここで紹介されているものはちゃんと出典があるモンスター。神話や昔話、ファンタジー、RPGが好きな人なら興味津々で読めることだろう。
第3章「妖怪見っけ!日本のモンスター」は、いま子どもたちに大人気の妖怪を、日本独自のモンスターとして紹介している。この章の特色は、力強いタッチで描かれた妖怪イラストだ。水木しげる系とも、江戸の浮世絵調ともまったく違った、生々しい迫力を備えたウルトラマッチョ系イラストがなんだかとっても新鮮です。
ちなみに本書のモンスターにはすべて「レア度」「危険度」などのデータがついていて、そこを眺めるだけでも楽しい。「ひとつ目小僧」はレア度が2で、「だいだらぼっち」は危険度が1。一体どんな基準で算出しているのか知らないが……楽しいからいいのだ。
そして最後の4章は「本当にいた!巨大モンスター」。この地球上に本当に存在していた(いる)巨大生物を紹介。たとえば最近話題の「ダイオウイカ」や、絶滅した巨大ザメ「メガロドン」、古代のお化けムカデ「アースロプレウラ」(でかくて怖い!)などなど。ここは本書の中でももっとも学術テイストが強く「なるほど感」が高い。理科が好きな人なら、この章に一番興味を持つかもしれない。
それにしても「ダイオウイカ」と、怪しさ満点の異星人「グレイ」が同じ図鑑に並んでいるなど、普通はあり得ないことなのだが、「モンスター」という言葉でくくればそれもアリになってしまう。読者の興味を広くカバーするという観点から、本書のコンセプトはなかなか頓知がきいているのであった。
コラムページが充実しており、知的興味を満たしてくれるのも嬉しいところ。「雪山怪物が現れた!」「ツチノコ捕獲に1億円!」「吸血鬼ドラキュラの正体」などのコラムでは、紹介されたモンスターの裏話を知ることができる。
「江戸時代にUFOが来た!?」はその筋では有名な「うつろ舟」のエピソードを紹介したコラムだが、何度読んでもワクワクさせられる。これを初めて読む小学生が心底羨ましい。
この中で紹介されているモンスターは、ほとんどが空想上の存在だ。だからといって、馬鹿にしたものではないだろう。古今東西、モンスター伝説を持たない文化はなかった。モンスターへの興味は突きつめると文学、神話、民俗学、生物学、とさまざまな学問領域につながってゆく。たかがモンスター、されどモンスターなのだ。
本書を熟読した小学生の中から、未来のモンスター博士が生まれてくることを期待せずにはいられない。わたしも30年前に出会いたかったよ!
文=朝宮運河