仕事に使える東大式記憶術 ―人生経験豊富なほど実は記憶力が優れている?

ビジネス

公開日:2016/3/7


『仕事に使える! 東大式記憶術』(吉永賢一/宝島社)

 年齢を重ねて「物覚えが悪くなった」と感じる人は多いのではないでしょうか。ところが、最近の研究では、記憶や学習を司る脳の海馬という部位は、死ぬまで再生が可能であることがわかってきました。それなのに、どうして私たちは、記憶力が低下したと感じるのでしょうか。

仕事に使える! 東大式記憶術』(吉永賢一/宝島社)によれば、年を取って記憶力が落ちたと思うのは、仕事や家事などを優先して学習に割く時間が減り、情報の整理ができていないことなどが原因だそうです。いくつになっても訓練次第で記憶力は蘇り、むしろ人生経験が多い人ほど記憶の引出しは多くなり、暗記しやすくなるのだとか。東大合格者1000人以上を指導したプロ教師の著者が教える記憶術とは、いったいどんなものなのでしょうか。

記憶力を上げるメカニズム

 まずはどんな状況でも共通する記憶術の初歩からです。

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(1)目標を定める
 最初に目標を決めましょう。資格試験に合格することなのか、仕事のマニュアルを覚えることなのか、ゴール地点を明確にします。

(2)段階を刻む
 次に、無理のない範囲で1日あたりの覚えるべき範囲を設定します。教本やマニュアルを1日2、3ページずつ覚えることなら誰でもできるはずです。

(3)反復する
 覚えたことは、すぐに仕事で使ったり、誰かに話したり、なるべく早く反復するのがよいといいます。いつ使うかわからない知識や、必要のない情報はすぐに忘れてしまうからです。

(4)周辺情報と関連付ける
 一昨日の夕飯は何を食べたかと聞かれてすぐに答えられる人は多くありませんが、同僚と飲みに行ったとか、スーパーのタイムセールで惣菜を買ったなど、周辺情報が増えるほど思い出しやすくなります。

(5)意義を見出す
 もっとも重要なのは、ポジティブな気持ちを持つことだそうです。「上司に命令されたから」「周りもやっているから」など、嫌々な気持ちでやっても効率は上がりません。「資格を取れば給料が上がる」「出世につながる」など前向きに挑戦することが記憶を保つ秘訣なのだとか。

 確かに私たち人間は、自分に都合の悪いことは忘れたがるものですから納得です。

記憶力を上げるライフスタイル

 生活習慣の改善も記憶力の強化につながるといいます。

(1)朝型学習をする
 社会人は仕事から帰ってきて就寝前に自主学習を行う人が多いようですが、1日の労働を終えた後の疲れた脳と身体では集中力は上がりません。そこで著者がオススメしているのが朝型学習です。人間が起床する早朝4時から午前10時までは、もっとも脳機能が高まる「脳のゴールデンタイム」といわれています。

(2)適切な睡眠をとる
 睡眠時間を削って猛勉強する人がいますが、これも逆効果です。記憶の定着は、寝ている間に行われます。適切な睡眠をとったほうが結果として暗記ものははかどるのだとか。

(3)適度な運動をする
 適度な運動は脳を活性化させます。速く歩く程度の有酸素運動を1日10分間、2週間続けると脳神経が増えて認知機能が向上したという実験結果もあるそうです。

(4)ストレスをためない
 脳はストレスに弱く、うつ病の人は海馬や周辺の脳細胞が萎縮してしまうのだそうです。ときには精神的休息も必要なようです。

(5)適度に緊張する
 リラックスと緊張の中間(ニュートラル)の状態がもっとも記憶に向いているそうです。緊張しすぎているときは音楽を聴いたり、気が緩んでいるときは姿勢を正して深呼吸したりしてみるのがよいそうです。

 仕事中心の生活になっている社会人は、記憶力が低下するのも当然という気がしてきます。

記憶力を上げるテクニック

 学習効率を上げるテクニックもいくつか紹介されています。

 たとえば、たくさんの情報を覚えるとき、「5つから9つ」に小分けして覚えるのが効率的としています。「人間は7±2個の要素を1セットにして覚える」とされていて、これは「マジックナンバー・7の法則」といわれています。

 多くの人は、学生時代、英単語を暗記するとき、繰り返し声に出して覚えるということをしたと思いますが、これは効果が薄いのだとか。英単語を10回続けて繰り返したとしても、実は脳は1回としかカウントしないのです。人間が短期的に覚えていられる時間は、15~30秒とされていて、最低でも15秒は間をあけてから復唱するのがポイント。この「間をあける」という方法は、「ホールド法」といって、記憶術の定番とされています。

 本書は、その他にも、社会人として機会の多い、資格試験の勉強、マニュアルの暗記、プレゼン原稿の暗唱など、さまざまなビジネスシーンごとに使えるテクニックを紹介しています。私たちが、当たり前にやっていた勉強法が、実は間違いだったなんて例も多く載せられています。

 記憶力に自信がないという方は、ただ正しい方法を知らないだけなのかも知れません。

文=愛咲優詩