大好きな彼には、いつだって可愛く思われたいもの。そしてできれば、彼が大切に思っている家族にも好かれたいのが、切実な女心でもある。

　晴れてプロポーズを受け、彼の実家に挨拶に行く際、手土産から服装、食事のマナーから言葉づかいに至るまで、細心の注意を払い、多少無理をしてでも「かわいい嫁」だと思ってもらえるよう、頑張った経験を持つ女性も多いのではないだろうか？

　ねむようこ作のマンガ『ふつつかなヨメですが！』（小学館）は、まさにそんな「頑張るかわいいお嫁さん」の様子がパワフルに描かれている一冊だ。

　物語は、高校2年生の男子・小向大（こむかいだい）が祖父と母と妹で暮らす家に、兄の徹（とおる）とその婚約者である小麦が「新居が決まるまで」という約束で、仮住まいをするところから始まる。小向家の面々は、大のブラコンである徹の妹・紫（ゆかり）をのぞき、小麦と暮らすのは大歓迎！ なぜなら小麦は、一見「美人で気が利く、働き者の、料理上手な理想の嫁」だったからである……。

　そんなある日、小向家の長男でもある徹が、なぜか突然、誰にも告げずにシンガポールに長期出張に出かけてしまう。「みんなにも小麦の素顔を知ってほしいんだ」と、自分の声を録音した謎のカセットテープだけを残して、フラリと姿を消してしまった。

　それを聞いた小麦は、不自然なほど動揺する。彼女は実は、徹がいないと、何もできない女性だったのだ……！

　毎朝OLみたいな格好をして、早朝に出勤し、夜遅く帰宅していたのも、食事の手伝いをすると料理ができないのがバレてしまうからで、実際はなんと無職。働いてすらいなかった。おまけに家事も一切できないので、洗濯も友人に頼んでいる有様。

　偶然真実を知ってしまった弟の大は、「嘘くらいつかないと…だって嫁がこんな出来損ないだなんて、みんなガッカリしちゃうでしょ？」と悲しそうにつぶやく小麦の意思を尊重し、秘密にすることを約束した。しかしその日の深夜、特攻服姿でそっと家を抜け出す小麦を目撃してしまい、開いた口がふさがらなくなってしまうのだ……！

「嫁としてはちょっと……」な秘密を抱えている小麦だが、彼女のまっすぐで、人情豊かな性格は、周りの人を惹きつける。例えば、「卵を割り入れて」と言われると、卵を包丁で真っ二つにしようとするほど料理ができないのに、忙しい義母の代わりに朝ごはんを作ろうと料理を猛特訓！ 無事朝食を完成させた。また、超ブラコンゆえ、隙あらば小麦を陥れようとする末っ子・紫の意地悪にも屈せず、徹がいない寂しさを家族の前ではおくびにも出さず、どんな時も強気の笑顔で過ごす様子には驚嘆させられた。

　家族の中で唯一小麦の秘密を知る大や、何かを感づいているらしいおじいちゃんも、そんな彼女に翻弄されつつ、いつの間にか手を差し伸べている姿は、大変微笑ましい。

　素顔はおバカな元ヤンで無職、家事は一切できない小麦が「本当の家族」になるために、四苦八苦しながら努力する様子が描かれている。「ふつつかな嫁ですが夜露死苦お願いいたします」と、ドドンと挨拶する彼女の明日は一体どうなるのだろうか？ 嫁として大胆に成長するだろう彼女を、胸を高鳴らせながら見守りたいと思う。

文＝さゆ