【言葉の歴史】「マジで!?」「大都会」は江戸時代から使われていた
更新日:2017/11/16
日本語の乱れが言われるようになってから久しい。ら抜き言葉や敬語の使い方。若者たちはいつの時代も、自分たちだけの新しい言葉を作り出す。いや、若者ばかりではない。老いも若きも気がつけば、時代に流されて言葉が変わり、昔使っていた言葉は忘れ去られてしまう。現代日本に生きる私たちが、『源氏物語』や『徒然草』のような言葉を使わないように。
とはいえ、残り続ける言葉もある。『考証要集(文春文庫)』(大森洋平/文藝春秋)は、特に時代劇で用いられる言葉をめぐる一冊である。現在私たちが何気なく使っている言葉も、その歴史は実にさまざま。明治を境に、われわれの母語日本語は大きく変化した。その変遷の歴史を、ほんの少しだけ辿ってみよう。
明治維新とともに、さまざまな概念や思想がヨーロッパから流入した。対応する言葉がこれまでの日本語にはなかったため、明治時代の人々が苦心して訳語を作り上げたのは、よく知られていることだろう。今では当たり前に使う表現も、実は明治期に輸入されたものだということも。
例を挙げてみよう。普段われわれが日常的に吸っている空気。江戸時代には空気は存在しなかった。それ以前にはそもそも「air」の概念がなかったのだから、吸いたくても吸いようがない。
まさに「目からウロコが落ちる」事実だが、目からウロコが落ちるのも、明治以降の日本人だけ。この表現は新約聖書由来のもののようで、明治のキリスト教解禁で、聖書とともに広がったものらしい。江戸時代の人たちの目からはなにが落ちていたのだろう? まさか、コンタクトレンズなんてことはあるまい。
江戸時代から使われていて、意外に思う言葉もある。大都会といえば、みなさんなにを思い浮かべるだろう? 東京の街並み? それともニューヨーク? 多くの人は高層ビルが立ち並ぶ街並みを想像するのではないだろうか? もしかすると、クリスタルキングのあの名曲を思い出す人もいるかもしれない。
実はこの言葉、江戸時代にすでに使われていたそう。江戸時代の人々は、この言葉を聞いて、どんな街を思い浮かべたのだろう?
もう一つ紹介しよう。驚きの新情報や、いまひとつ信じられない情報を聞いたとき、みなさんはどういう反応をするだろう?「え、マジで!?」と返す人も多いのではないだろうか? この軽いノリに、思わず眉をひそめる年配の方々もいるだろう。
だが、実はこれ江戸時代からすでに使われていた言葉だという。それも18世紀末にはずいぶんと流行ったそうだ。実に200年以上も昔から使われてきた言葉であり、当然ながら現在生きているすべての日本人よりも長命である。まさしく、「マジで!?」だ。
人間と同じように言葉にも寿命がある。その寿命がわからないのも、これまた人間と同じ。今私たちが使っている言葉も、100年後には多くが入れ替わっているかもしれない。その一方で意外な言葉が幾世代も先まで使われ続ける可能性もある。大人たちが眉をひそめる若者言葉が、数世代を経て年長者のみが使う言葉となっていてもおかしくない。
言葉の変遷はかくも予測不可能で、面白い。
文=A.Nancy