20世紀を代表する絵本作家モーリス・センダックからの最後の贈り物『バンブルアーディ』
更新日:2017/11/16
20世紀を代表する絵本作家のモーリス・センダックの新作絵本『バンブルアーディ』が2016年4月13日(水)に発売される。『かいじゅうたちがいるところ』、『まよなかのだいぼうけん』、『まどのむこうのそのまたむこう』の3部作がセンダックの代表作とされているが、『バンブルアーディ』は『まどのむこうのそのまたむこう』以来、30年振りにセンダック自らが手掛けた絵本となる。
2011年に発表された同作だが、その翌年に亡くなったセンダックにとって、『バンブルアーディ』は生前最後の絵本となった。そのイラストは、80代という年齢をまったく感じさせないエネルギッシュな魅力にあふれている。
誕生日を一度も祝ってもらったことのなかったブタの男の子、バンブルアーディが両親の死後におばさんのもとに引き取られ、生まれて初めて誕生日を祝ってもらう1日が描かれた同作。気をよくしたバンブルアーディが近所のブタたちを招待して開くパーティのシーンが圧巻であり、80歳を過ぎたセンダックのイメージの奔放さに圧倒される場面だ。
物語の筋は、1970年代に「セサミストリート」のために作られたアニメーションがもとになっているが、格段にパワフルな内容にバージョンアップ。数十年を経て絵本になったのは、センダックにとって愛着のあるストーリーだったからかもしれない。ちなみに、作中でバンブルアーディの誕生日とされている6月10日は、センダック自身の誕生日でもあるとか。
センダックの絵本では、大人たちがあまり重要な役割を果たさない。3部作にも両親はほとんど出てこないし、オリジナルストーリーのものにかぎらず、ホームレスの子どもを主人公にした『わたしたちもジャックもガイもみんなホームレス』でも、強制収容所で子どもたちが演じたオペラをもとにした『ブルンディバール』でも、センダックは子どもたちが自分たちだけの力で困難を乗り越える姿を描いてきている。ところがこの『バンブルアーディ』には、アデリーンおばさんというとても魅力的なキャラクターが登場する。センダックがその絵本作家としてのキャリアの最後に、両親にネグレクトされた少年が包容力のある大人に愛情をもって抱きしめられるという絵本を残したのだ。
また、絵本の表現の可能性を切り拓いてきたこれまでの傑作とおなじく、『バンブルアーディ』もまた、シンプルなストーリーとともに、一筋縄ではいかない奥行きをもった作品となっている。狂騒的なパーティシーンはなにを意味するのか、謎めいた台詞をどう読み解くのか。読者それぞれが、センダックからの最後の贈り物にじっくりと向き合って楽しめるのではないだろうか。
■『バンブルアーディ』
著・イラスト:モーリス・センダック
訳:さくまゆみこ
価格:2,000円(+税)
発売日:2016年4月13日(水)
出版:偕成社