ラジオパーソナリティに学ぶ“わかりやすい話し方” 「ひらがなで話す」「無駄な指示語は使わない」

ビジネス

公開日:2016/3/14


『「ひらがな」で話す技術』(西任暁子/サンマーク出版)

 一生懸命話してはいるものの、何が言いたいのかわからない…あなたの身の回りにそんな人はいないだろうか。朝礼でやたらと話の長い小学校の校長先生、ふんぞり返って偉そうに説教をする部活の顧問、会議でだらだらと言葉を重ねる会社の上司…と、世の中には「結局何が伝えたいのかわからない人」が存外に多くいるものだ。しかし一方でテレビやラジオを聞いていると、発した言葉がすんなりと自分の耳に、そして頭に入ってくる人もいる。言葉というツールは同じはずなのに、なぜ人によってこうも伝わり方が違うのか…今回紹介する『「ひらがな」で話す技術』(西任暁子/サンマーク出版)では、その謎に対して実に画期的な説明がなされている。

 著者の西任暁子氏は慶応義塾大学在学中に応募者3000人のオーディションを勝ち抜き、大阪FMのラジオパーソナリティに抜擢されたという経歴を持ついわば“言葉のプロ”。よほど言語感覚に優れ、さまざまなテクニックを駆使して話を盛り上げているのだろう、本書ではきっとそんな彼女の熟練した小技がいろいろと紹介されているのだろう…と期待に胸を膨らませページを開いてみる。すると、確かに彼女が自身の経験の中で体得してきた多種多様な技能が紹介されているのだが、それ以上に本書の中ではその“技”を使わなければいけない「理由」が繰り返し強調されていることに気付く。

 例えば、タイトルにもあるように、著者は話をする際には「ひらがなで話す」ことを心がけているという。言葉にはそれぞれ意味があるが、それが口から発せられると相手にはその意味ではなく「音」が届く。例を挙げると、「こうか」という言葉を発したときには、「こ」「う」「か」の3つの音が相手に届き、それが相手の頭の中で「効果」「高価」「硬貨」と変換され、文脈によってどの漢字か判断される。すなわち音として聞こえたそれぞれの言葉は一度頭の中で「漢字」へと変換され、そこでようやく意味が理解されるのである。日本語には同音異義語が多数あるため、もしかしたらこの漢字変換がうまくいかないかもしれない。あるいは正しく変換されるまでに多少のタイムラグがあるかもしれない。言葉を発した本人は当然のように頭の中で正しい漢字が浮かんでいても、聞き手は必ずしもそうではなく、そこに生まれる若干のギャップがコミュニケーションを阻害してしまうのだと著者は言う。そのため、聞き手が頭の中で変換する漢字が少なくて済むようにするためになるべく「ひらがな」で伝えられる言葉を使って話すのだと。

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 他にも無駄な指示語を使わない、一文を短くする、など本書では著者が使っているテクニックがさまざまに紹介されているが、それら全ては著者が「相手にどう聞こえているのか」を考え抜いて編み出された技術である。なぜそうまでして聞き手のことを考えるのか? それは、言葉は相手に「受け取って」もらい、相手が「わかる」ことで初めて「伝わった」と言えるものだからだ。そのため、著者は「どう伝えるか?」と自分に主語を置くのではなく、「相手がどう受け取るか?」と聞き手に主語を置いて常に言葉というものを考えているのだ。

 世の中には話し方のテクニックを紹介するハウツー本はいろいろとある。しかしその多くはその技術を強調する内容で、聞き手に対してここまで言及しているハウツー本は初めて出会った。技術ばかりが強調されているとそれらを「使う」ことに気を取られ、聞き手のことを置き去りにしてしまい途端にその話はわかりにくい話になってしまう。相手が「わかる・理解する」、このプロセスがないと話は伝わらないのだな、という当たり前のことすぎて見落としていたポイントを、この本が気付かせてくれた。

文=ヤマグチユウコ