朝型勤務は本当にいいのか? 眠りの専門医が睡眠にまつわる問題をひもとく!

生活

公開日:2016/3/22


『朝型勤務がダメな理由 あなたの睡眠を改善する最新知識』(三島和夫/日経ナショナルジオグラフィック社)

 早寝早起きは褒められるが、宵っ張りの朝寝坊=ダメな人というのはほとんど定説になっている。しかし人それぞれ体格や性格は違うし、生活サイクルだって、重ねてきたやり方だって違う。それなのに、やれ「ゆう活」だ、「朝型勤務にしよう!」というのは暴力的だなぁ、と常々思っていた。しかし夜はすぐに眠くなって、朝も強いとは言えない自分に反論できる根拠はない。どうしたもんか、と思っていたところ、『朝型勤務がダメな理由 あなたの睡眠を改善する最新知識』(三島和夫/日経ナショナルジオグラフィック社)という、なんともピッタリでアグレッシブなタイトルの本を見つけた。しかも著者は国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神生理研究部部長を務める眠りの専門医。自己啓発とか、誰かの思いつきではない、医学的な見地からのマジメな一冊なのだ。しかし文章はかなりフランクであり、ふむふむと読み進められる軽さがある。

 その内容は驚くことばかりだ。「思春期は最も夜型になるため、朝起きられず、授業中に眠くなるのが当たり前になってしまうこと」や、「早起きがツラいのは最初だけ」というのは嘘であること、「自分は眠気に強い」と思い込んで、睡眠不足が慢性化すると眠気を感じにくくなって悪循環に陥ること、少しでも寝足りない日々が1~2週間続いただけで徹夜以上のダメージが生じることなど、睡眠にまつわる間違った認識や知らないことがじゃんじゃん出てくる。また健康的な生活を維持するために欠かせない「必要睡眠量」は、なんと2時間も個人差があるという。そして最低でもこの睡眠時間が確保できないと、日中の眠気や倦怠感、能率低下、ヒューマンエラーの原因となり、中長期的には生活習慣病やうつ、認知症など様々な疾病のリスクを高めるというから、「疲れが取れない」「休日は寝だめしている」という人は睡眠のための知識が詰まった本書を即刻必読、そしてとっとと寝てください!

 この「睡眠の大切さ」を身を以って証明していたのが、2015年11月30日に93歳で亡くなられた漫画家の水木しげる氏だ。水木氏は2013年、東京都現代美術館で開催された「特別展 手塚治虫×石ノ森章太郎 マンガのちから」に『睡眠のチカラ』という漫画を寄稿している。その内容はこうだ。

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 とある出版社のパーティーで、忙しくて数日徹夜が続いていることを言い合う手塚、石ノ森両氏。しかし水木氏は「自分はどんなに忙しくても十時間は寝ています」「アンタら睡眠をバカにしちゃあいけませんョ」「眠っている時間分だけ長生きするんです」「幸せなんかも“睡眠力”から湧いてくる」「“睡眠力”こそが全ての源ですッ!!」と力説して手塚、石ノ森両氏を圧倒。そして最後のコマで「…というわけで両氏は早死にしてしまったんだなぁ」と寂しそうにつぶやいている。

 奇しくも同じ60歳で手塚、石ノ森両氏が亡くなっていることを考えると、晩年までマイペースに人生を楽しんでいた水木氏の言葉は本当だったのだ、と誰もが思うだろう。生活サイクルを守る、自分にとって必要な時間だけは必ず寝るという基本的なことができないと、体を壊すリスクは高まるし、日々のパフォーマンスも上がらないのだ。なので、朝は早起きしないとダメとか、起きられないのは気合が足りない、徹夜してでも仕上げろというような「自分ができるんだからお前もできるはずだ」という一方的な押し付けや根性論は断固拒否しないといけない(だからといって、いつまでも寝ていていいわけではないですが)。

 日本でもサマータイム制を導入するという話もあるが、本書を読むとその必要はないと感じた。誰もが活躍できる社会というのは、各々が力を発揮できる場を作るということなのだから、朝に強くて早く出勤した人は早く帰る、夜になると猛然と仕事のできる人は午前中休む、といったようなフレキシブルな働き方ができるようにしないといけないのだ。そのために、睡眠の正しい知識を本書で多くの人に学んでほしい。

 ところで2015年、政府の主導で全府省庁を対象に「ゆう活」を実施してましたけど、「やってよかった!」という声が大々的に聞こえないところを見ると…あんまり上手くいかなかったんでしょうかね?

文=成田全(ナリタタモツ)