『野ブタ。をプロデュース』の著者が12年ぶりにおくる痛快学園モノ! いじめをなくすために奮闘するのは“大仏マン”!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15

 気持ち新たに、新学年、新学期を迎えようとする3月。“ネットいじめ問題”が増え続ける現代、正義とは何かを新たに問う痛快学園小説『ヒーロー!』が2016年3月17日(木)に発売された。

 『野ブタ。をプロデュース』の著者が12年ぶりにおくる学園モノ小説のテーマは“ネットいじめ問題”へのアプローチ。スマートフォンやSNSが普及した近年において、「人間の瞬間的な感情」が顕在化されやすくなり、学校でのいじめ問題はより複雑な社会問題となっている。同書は、学校のいじめを無くそうとする話であるのと同時に、人間の心の中に宿る「正義とは?正しさとは?」何かを問う話でもある。

深刻化する現代のいじめ問題。その件数は18万件以上、それはまだ氷山の一角…。
文部科学省が発表した平成26年度のいじめに関する調査結果によると、いじめの認知件数は18万8,057件で、前年度より2,254件も増加。いじめを認知した学校の割合は、全学校の56.5%にも及んでいると言われている。またこれは、いじめが顕在化し認知されているものを可視化した数字であり、潜在的に存在するであろういじめの件数を含めるとその数は計り知れない。その問題の1つが、インターネット上におけるのコミュニケーションのあり方。内閣府の調べによると、ネット環境が普及発達した今、高校生におけるスマホ所有率は93.6%にも及ぶと言われている。また、青少年間のコミュニケーションに当たり前にSNSが活用されるようになった今、昔と比べ青少年の頭の中に広がる世界は、インターネットの割合が広がりつつある。

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 個人の言葉をSNSを通じて発信しやすくなった今、いじめのきっかけともなりえる一言を、インターネット上で可視化することが容易になった。部分的に見ると、罪意識の薄い一言かもしれないが、それがSNS上に積み重なっていったり、また複数名が関与していくことでその一言は大きないじめの原因にもなりえる。これは現代のインターネット文化が生んだ、非常に残酷な現実と言える。

 今、学校や家だけではなく、インターネットまでもが、学生にとって当たり前の“居場所”となっている。著者が同書を書く動機となったのが、ネットいじめ問題の結果、個人の“居場所”がより少なくなってしまうという課題意識だ。「居場所が無くなる」という課題に対してどう解決策を導き出せるのか。また、一筋縄で解決しないネットいじめ問題に対して、人の悪意と向き合いそれをどのようにうまくかわし、生きていくことができるのか。根深い社会問題に対して、希望を持てるビジョンを提示する。そんな同書のあらすじをご紹介しよう。

大仏マン・ショーでいじめをなくせ!! ヒーローばかの男子とひねくれ文化系女子が立ち上がる
「いじめとは誰か特定の人に負の関心が集まって起こるものである。だからこそ、みんなの関心の対象をすり替えてしまえば、学校のいじめがなくなるかもしれない」そんな思惑から、大仏のマスクをかぶり、休み時間ごとにパフォーマンスショーをする新島英雄とその演出担当の佐古鈴。二人は「大仏マン」という新しいキャラクターを生み出し、一風変わったやり方で、いじめの撲滅と居場所づくりを目指そうとする。

しかし、そう簡単には進まない…
佐古の唯一の親友だった、演劇部で脚本をつとめる小峰玲花が、どういうわけか敵として立ちはだかることになったり、学校に転校してきた無愛想な美少女・星乃あかりがいじめの標的にされてしまう。

 小説を掘り下げて見えてきたのは、正義の凶悪性、つまりは「正しさが人から思いやりや優しさを奪う」ということだった。

僕は人間の心の中に宿る正義っていうものが怖いんだよ。僕らは正しさを掲げるときには必ず見えなくなるものがある。相手が自分と同じ人間であることを忘れてしまう。相手の尊厳や、大切なものをないことにしてしまう。それは別にいじめに限ったことじゃないんだ。この世の中にある争いや啀み合いはみんなそうやって生まれてる本文より抜粋

■『ヒーロー!
著:白岩玄
価格:1,512円(税込)
発売日:2016年3月17日(木)
出版社:河出書房新社

白岩玄(しらいわ げん)
1983年、京都市生まれ。2004年『野ブタ。をプロデュース』で文藝賞を受賞し、デビュー。同作は芥川賞候補になり、またテレビドラマ化され、70万部のベストセラーになった。他の著者に『空に唄う』『愛について』『未婚30』『R30の欲望スイッチ-欲しがらない若者の、本当の欲望』などがある