なぜ「幸せな人」は少ない? 『幸せになる勇気』と前作『嫌われる勇気』の違い
更新日:2018/6/13
『幸せになる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教えII』(岸見一郎、古賀史健/ダイヤモンド社)は、まず赤色の装丁が目じるし。「アドラー心理学」に懐疑的な「青年」と、哲学者「哲人」の問答をする物語形式。ともに
「青年」が問い、「哲人」が答える形をとっている「勇気の二部作」完結編である。前作は青色の装丁が印象的な『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』(ダイヤモンド社)。2013年末に初版が発行されて以来、2016年3月時点で発行部数100万部以上のミリオンセラーとなった。
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そもそも「アドラー心理学」とは、20世紀初頭にオーストリア出身の精神科医、アルフレッド・アドラーが提唱したもの。フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称される思想。ことに欧米では人気が高く、人生やビジネスにおける成功哲学を説いた世界的ベストセラー『人を動かす』で知られているアメリカのデール・カーネギーも、アドラーの思想に色濃く影響を受けたという。
各界にもいまなお信奉者が増えている。フリーアナウンサーで元TBSの小林麻耶さんもそのひとり。前作を何度も読み込み、大量の付箋をつけている、とネットニュースでも話題となった。
では、前作との違いは何か?
前作で「アドラー心理学」に感化された「青年」は転職し、中学校教師となる。そこでほめることも叱ることもしない教育を実践し、教室が荒れてしまい、叱る道に方向転換。結果、さらに悪循環に陥ってしまった現実を嘆く。前回の問答から3年後、再び「哲人」を訪ねた「青年」が、一度は感化された「アドラー心理学」への疑念をぶちまける。
本作は、“「アドラー心理学」は机上の空論だ”とする「青年」の誤解を丁寧に解き、幸せになるため「人生最大の選択」の必要性を訴えている――実践に基づき、わかりやすい方法を示唆――これが前作との違いではないか。「嫌われる」から「幸せ」というプラスイメージに重心を置いているのが特徴。
読む人ひとりひとりが「青年」がぶちあたった現実ケースから、それぞれの立場で「アドラー心理学」の理解を深め、幸せになるには? と考えられる構成になっている。じつは文字が大半を占める紙面。だが、「愛される人生ではなく愛する人生を選べ」「本当に試されるのは歩み続けることの勇気だ」など、小林麻耶さんのように思わず付箋をつけたくなる、人生の指針にしたくなる言葉がちりばめられている。
「青年」の疑念(なかにはイチャモンをつけているだけでは?と思えるときもあるが)に対して「哲人」が真摯に疑問に答える形式は、実は対人関係・親子関係等に悩む自分のケースに引きつけて考えられるのだ。日々の暮らしの中で、より幸せを希求するために、それまで貫いてきたライフスタイル・ものの見方・生き方をかえていくには「勇気」がいる。前作『嫌われる勇気』・本作『幸せになる勇気』、「勇気」二部作の意味はここにある。
ふたたび幕を開ける哲学問答の世界。読みすすめていくと、自分も幸せに包まれている気分になり、不思議なことに明るい未来も見えてくる。
文=塩谷郁子