何を目的に“生きる”べき? ソクラテスが悩めるサラリーマンの「本当の考え」を引き出す!
公開日:2016/3/23
ビジネス書の世界では時折、先人たちの知恵にあずかろうとするブームが訪れる傾向にある。多くは過去の良書や宗教書、哲学書を現代風に分かりやすく読み解くもので、時代を超えても、普遍的に人間が抱える疑問や不安、悩みにこたえてくれるものが多い。「アドラー心理学」に懐疑的な青年と、哲学者の問答を物語形式にした『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』などもそうだ。
そして昨今、「無知の知」などの言葉で知られるギリシャの哲学者・ソクラテスを取り上げた本がじわじわと注目されている。そのなかの1冊が、書籍『ソクラテスに聞いてみた 人生を自分のものにするための5つの対話』(藤田大雪/日本実業出版社)である。
主人公は、27才のしがないサラリーマンのサトル。中小企業の社員として、マンネリの拭えない日々を過ごしている。そんなある日、サトルのFacebookに1通の友だち申請が届いた。
「ソクラテスさんから友だち申請がきています」
プロフィール写真にはどこかで見たような大理石像。もじゃもじゃのあごヒゲにハゲ頭の姿はまさしく、古代ギリシャの哲学者・ソクラテスである。おまけに年齢や出身地、座右の銘にいたるまでみごとに設定……もとい、ソクラテスそのままの言葉が並んでいた。
何とも怪しげなくだりから始まる物語は、サトルとソクラテスの会話により展開していく。初めはいぶかしげに思うサトルであったが、公園での出会いを果たし、友達・恋愛・仕事・お金・結婚という、人生における普遍的なテーマへの“答え”を学んでいく。
仕事~自分のやるべきことは何だろう?~
モンスタークレーマーに出くわしてしまい、転職を考え始めたサトル。自分は何をやりたいんだろう。自己分析シートの作成に悩むサトルは、「汝自身を知れ」と名言を残したソクラテスに、アドバイスをもらいにいった。
しかし、サトルの自己分析に質問を重ねる形で、ソクラテスは苦言を呈する。誰のために生きるのか。採用担当者の顔色をうかがうサトルに「キミの実存に関わる問題なんだ」と指摘するソクラテスは、さらに「キミの転職活動について、ひと言、言わせてもらっていいかな?」と問いかけた。
「キミは、偽りの自分を演じればいい仕事に就けると思っているみたいだけど、それはやっぱり間違いなんじゃないだろうか」
その真意とは、サトルが「会社のご機嫌をとったり、言いなりになったりしているかぎり、相手から真剣に求められることはない」ということ。人生を生きるうえで大切なのは「自分をごまかさない」「他人におもねらない」「どんなときも最善を尽くす」ということで、常に「優れた人間になるよう日々精進をして、一緒に仕事をしたいと思わせられる存在になればいい」と優しく説きふせるのであった。
お金~何を目的に“生きる”べきなのか?~
ダンボールハウスで暮らすソクラテスは、日課のアルミ缶拾いにいそしんでいた。かたや、正社員として働きつつも、将来への不安から貯蓄や投資へ関心を寄せるサトル。ある日、いつもは打ち負かされるばかりのサトルは、意気揚々とお金にまつわる話をソクラテスにぶつけていた。
貨幣価値とは何か。将来的なリスクヘッジのために今、何をすべきなのか。経済についてソクラテスが「赤ん坊のように何も知らない」とみるや、次々と持論を展開するサトル。しかし、「人間はいかに生きるべきか」が重要な問題だと口にするソクラテスは、お金と人の繋がりから「何が善い生き方なのか」を考えようと投げかける。
「人間の価値は『何を持っているか』ではなく『どう生きたか』によって決まる」
お金にしろモノにしろ、使ってこそ初めて価値が生まれる。そのうえで重要なのが、どう使うかということだ。蓄える、集めるということ自体に価値が生まれるのではなく、「大切な人のために使ったり、立派で美しいことのために使ったりする」ことを忘れてはいけない。加えて、魂のあり方を命題に掲げるソクラテスは、自分の価値を自分自身で決められる人間だからこそ「豊かな内面世界を築くことができる」とサトルに問いかけた。
本書に登場する主人公・サトルは、等身大の私たちを映し出している。だからこそ、理屈っぽく小難しいおっさんのソクラテスとのやりとりに、不思議と参加しているような感覚にさせられる。誰もが抱えうるものの、慌ただしい日常ではついつい置き去りにされがちな問題を振り返るきっかけにしてみるのはいかがだろうか。
文=カネコシュウヘイ