ことばには力がある! 原発、戦争、貧困、同性愛…。大人がハッとする10代のメッセージ集

社会

公開日:2016/3/25


『この思いを聞いてほしい! 10代のメッセージ(岩波ジュニア新書)』(池田香代子/岩波書店)

どうやって直すのかわからないものを、こわしつづけるのはもうやめてください。

 そんな強烈な一言を12歳の少女が放ったという。この言葉は、1992年6月、ブラジルのリオデジャネイロでブラジル地球環境サミットが開かれた際、カナダの12歳の少女、セヴァン・カリス=スズキさんがスピーチで披露したものだ。地球環境の大切さを訴え、多くの人々の心を揺さぶり、「伝説のスピーチ」と呼ばれている。

この思いを聞いてほしい! 10代のメッセージ(岩波ジュニア新書)』(池田香代子/岩波書店)には、この12歳の少女のスピーチをはじめ、国際会議でのスピーチ、母校の卒業式、オバマ大統領への手紙など、様々な場面での10代の若者の「この思いを聞いてほしい!」というメッセージがつまっている。

 そして、彼らの思いを編著したのが、池田香代子氏だ。池田氏は巻頭でこう述べている。

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たしかに世界は、環境破壊、戦争、核兵器、貧困、不平等、偏見、差別といった、悪しきことがらに覆いつくされています。そんな世界を見渡して、若い人びとがおとなに怒りを覚える、そうでなくても、「どうして、こんなことになるまで放っておいたの?」とあきれるのは、しごくもっともです。

 本書のメッセージに出てくる若者は、確かに全員が憤って、戸惑っている。原発、戦争、貧困など、自分たちの力ではどうしようもないことを、それをつくった大人たちを非難している。その言葉はどれも10代という純粋さに磨き上げられ、非常にストレートで、やましいものを抱える大人には受け止めきれないものかもしれない。

 しかし、それと同時に、本書のメッセージの中には、大人を頼りにしていたり、感謝していたりする内容も見られる。池田氏はこう述べる。

それらの告白はわたしたちに、情けないおとなではあるけれど、若い人びとのために力をふるうべきことはあるのだと、わからせてくれています。

 若者たちは大人や環境を非難しても、それでも大人を頼りたいし、感謝しているのだ。本書を読むと、考え込み、これまでの人生を振り返る人は多いだろう。きっと多いだろうと私は信じたい。

 本書には多くのメッセージが収められているが、その中でも個人的に心に残ったものを1つ紹介したい。同性愛についてのカミングアウトだ。「パンドラ」というペンネームの男性が告白している。

 彼が「ゲイ」であることを自覚したのは中学2年生の頃。周りと違うことに気づき、孤独を感じながらもひた隠しにしてきた。しかしある日、同じクラスの女子にゲイであることがバレてしまったという。そのとき、その女子が放った一言が書かれてある。

「あんたみたいな人が生きているなんて信じられないんだけど(笑)」

 今でこそ「オネエタレント」たちがテレビで大活躍しているが、あれはあくまでもテレビの世界に過ぎない。現実世界では、ことさら思春期の同性愛者は、こんなにも肩身が狭く、生き辛いのだ。「価値観」という壁に阻まれて、彼らは孤独と差別に苦しむ。

 しかし、そんな彼にも良き理解者が現れる。高校の女性ALT(外国語指導助手)だ。ALTに思い切って打ち明けたところ、引くどころかあっさり受け入れてくれたという。このことがきっかけで、彼は両親にも打ち明け、ゲイパレードに参加し、仲間を見つけていった。差別に負けないよう、前を向いて歩いているという。

 人類が生み出した偉大な発明の1つに「言葉」がある。私たちは言葉を使って心を通わせ、行動をする。若者に罪はない。彼らには、押し付けられた環境に憤り、叫びたい思いを言葉に変える権利がある。そして大人には責任がある。若者の言葉を受け止め、彼らを支え、次の時代へと導く義務がある。

 パンドラがスピーチの中で偉人の言葉を紹介している。キング牧師の言葉だ。それを最後の結びとしたい。

「信じるところに従って最初の一歩を上がりなさい。階段全部をわかっている必要はない。とにかく最初の一歩を踏み上がるのだ」

文=いのうえゆきひろ