書店員は鬼、お客様は神様!? 異次元書店に迷い込んだ本好き人間の、書店ギャグコメディ

マンガ

公開日:2016/4/3


『本屋の鬼いさん』(ももたん/KADOKAWA)

 本を愛する人なら、「本屋で働いてみたい!」と思ったことのある人も多いだろう。毎日のように入ってくる新しい本には、様々なジャンルの情報や物語が詰め込まれている。つまり本屋は、簡単に足を運ぶことができるお手軽な場所でありながら、膨大な情報が密集している場所なのだ。そう考えただけでもわくわくしてくる。

 そんな「本屋」が舞台となっている物語は多数出版されているが、その中に、『本屋の鬼いさん』(ももたん/KADOKAWA)というちょっと変わった漫画がある。

 就活を終え、大学最後の夏を本に囲まれて過ごすため、池袋で書店員のアルバイトをすることにした主人公・初瀬桃太郎。しかし面接に行く途中、道に迷ってしまう。何とか「九十九屋書店」にたどり着き、面接を受けることができたが、この書店、何かがおかしい。実はここ、お客様は神様、書店員は鬼のトンデモ書店だった――。

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 大学最後の夏、ということはたった半年の勤務? 覚えることが山のようにある本屋で? と、元書店員としては勤務期間が少し気になってしまうが、“テスト”を無事クリアして書店員になった初瀬。しかし憧れていたものとは随分と違う、刺激的な書店員ライフが待っていた。

 まず、一緒に働く書店員たちは、史上最強の鬼・酒呑童子に、その片腕・茨木童子、菅原道真公所縁の鬼神・雷電と、全員「鬼」。さらに店長は、モールス信号で話すもふもふふわふわした毛玉。そして書店にやってくるお客は、「わらしべ長者」や「メフィストフェレス」、「大日如来」など、常軌を逸したメンバーばかり。

 そんなハチャメチャな中で所々に描かれる書店業務や「書店あるある」は、意外と現実的。例えば、買うのが恥ずかしい本を別の本で挟んで持ってくるお客さん。本の雰囲気でアレな本だということは分かるので、「隠したかったんだな」と思うと逆に見てしまうのが現実なのだが、実際けっこう多い。

 他にも雑誌のシュリンクやPOP制作、お客さんからの無理難題な問い合わせへの対応などなど、書店での日常を垣間見ることができる。POPを書くのに夏目漱石とピカソを召喚しようとしたり、超能力で本を探そうとしたりと、その対応の仕方は人間離れしているが、この「その辺の本屋で働く人外の書店員」感が、本屋好きにはたまらない。第6話の、鬼すらも悩ます「書店員が戸惑う検索依頼ベスト3」には、書店員経験者なら誰もが頷くはずだ。

 終始ハイテンション且つぶっとんだ漫才のような、息をつく暇もないこの漫画。テンポの良いギャグコメディなので、書店員経験のない人や、普段あまり本屋には行かない人でも十分楽しめる内容となっている。むしろこの本を読めば、普段行かない本屋に入ってみたくなる。実は気づいていないだけで、鬼がPOPを書いていて、横にいるお客さんは神様かもしれない。

文=月乃雫