「まちの本屋」の活路は、”目利き”書店員にあり?

社会

公開日:2016/4/2


『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』(田口幹人/ポプラ社)

 『まちの本屋 知を編み、血を継ぎ、地を耕す』(ポプラ社)の著者・田口幹人さんは、現在、岩手県を中心とした中規模書店である「さわや書店」「フェザン店」(盛岡駅ビル店舗)の店長。奥羽山脈沿いの温泉街出身で盛岡で就職後、帰郷して実家の書店を継ぐが、7年で店を閉じる。2011年に「さわや書店」に就職し、今に至る。

 さわや書店はあらゆる工夫をして本を売ることで有名だ。ポップ(店に行くとよく見る本の宣伝。多くは店員さんによる手作り感満載のもの)を効果的に置くことで知られている。ほかにも職場体験の中学生受け入れや読書教育、図書館と書店の協働やイベント企画、地元のラジオ放送にもかかわっている。文庫化・映画化もされたミリオンセラー『永遠の0』(百田尚樹/太田出版)のヒット発信源でもあるのだ。

 本書では、書店のしくみを知ることもできる。そこで知るのは実に驚愕の事実だ。

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「出版不況」と言われているが、2015年には約8万点の新刊本が発行されているという。1年365日で日割りしても、なんと1日に約220点の本が発行されているという計算になる。その膨大な書目の中から、書店員さんがオススメし、多くの人に「読んでほしい」すなわち「売りたい」本となり、売る工夫と仕掛けまで考える本は、ごくわずか。店頭に置かれたものの売り上げに結びつかない本は、「不稼動在庫」となり、さらに売る側に見放されてしまえば、本は書店から撤去され、返品の憂き目にあう。発行されるほとんどの本は、読者の目に届くことなく終わるのだ。さりげなく本屋さんの店頭に並んでいる本は、実は厳選されたエリートで、ベストセラーとなる本は、エリート中のエリートなのだ。一方、出版社も「イチおしの本」は、先行して刊行前の本をゲラ(試し刷り)の段階で書店員にあらかじめ読んでもらい、青田買いしてもらうのだという。

 実にシビアな現実――出版社も書店側も必死。この出版社×書店の攻防にはビックリさせられるが、同時に、書店員さんの「目利き」が非常に重要なのかもわかる。いかに書店員さんの目に留まるかが、本のキモなのだ。

 現在、「まちの本屋」ことに小規模書店は、続々と姿を消している。店の売り上げだけでは経営が成り立たない。大型チェーン店やネット書店の台頭、人口減少による市場縮小…マイナス要素は山積み。店を閉じる店主はあとを絶たないのだ。

 田口さんも実家の書店で尽力したものの、経営に行き詰まった経験があり、「まちの本屋」に対する思いは真に迫ってくる。「まちの本屋」はどうしていったらよいのか?

 ヒントはまず、売る側の書店員にありそうだ。「目利き」の力を鍛え、イベント等も提案できる書店員として鋭敏な感覚を養うこと。お客の側も、本を購入するだけでなくイベント参加等にも広げれば、いつのまにか地域を活性化することにもつながる。「まちの本屋」は、その交差点になりえるのではないか。本屋さんは本を紹介し、お客は自由にそれに乗っていく。「まちの本屋」は、ひいては、文化をつくり出すきっかけになると田口さんは見る。

 あなたの「まちの本屋さん」にはどんな本が置いてあるだろうか? 書店員さんはどんな本をオススメしてくるだろうか? 本屋さんに行ってみたくなる。

文=塩谷郁子