松田 凌「乙一作品から受ける生々しさは、どんな役者でも表現できないじゃないでしょうか」

あの人と本の話 and more

公開日:2016/4/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、舞台『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で、主人公の一人・翔太を演じる松田凌さん。ふだんあまり小説を読むほうではないという松田さんが、強烈に心を揺さぶられ、惚れ込んでしまったという乙一の小説『暗黒童話』について話を訊いた。

 事故で左目と記憶を失った女子高生が、眼球移植によって得た新たな眼の記憶をたよりに、監禁されているはずの少女を探す旅に出る。『暗黒童話』には、主軸となる物語のほかに、目のない少女のために鴉(からす)が眼球を集める童話が挿入されている。

「もしこの作品を演じることがあるなら、何より鴉をやりたいですね。……いや、違うな。演じたいというよりも、僕は鴉になりたいんだと思います。彼の目を通じて世界を見てみたい。初めて『暗黒童話』を読んだとき、本編よりもまず先に、鴉が語り、人間の心を理解して、人間のために眼球を集めるというその設定に衝撃を食らった。それですっかり鴉に惚れてしまったんです。
だけど実際に演じるとなると、どうやっても陳腐になってしまいますし、難しいですよね。というか、乙一さんの小説って全部そう。描かれている感情をものすごく深いところで受け取ることはできるのに、体現することはできないんです。言葉が絶妙な力を持って語られているから。そこから受けとる生々しさは、どんなにすごい役者さんでも表現できないんじゃないでしょうか」

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 そんな松田さんがこのたび立つのは、舞台『ナミヤ雑貨店の奇蹟』。東野圭吾原作のタイムトラベル・ファンタジーだ。

「演じるからには、もちろん自分なりの翔太を生み出していきたいとは思っているんです。でも、演出家の成井さんは僕のイメージをはるかに超えるものをいろいろ想定していらっしゃるでしょうから、いろいろ注意されるかもしれないけれど、それをきっちり受け止めて自分の芝居を変化させていきたい。その中で、成井さんや東野さんの想像を一度でも超える瞬間があれば、僕を使ってよかったと思ってもらえるだろうし、それを目指していかないと僕が出る意味がなくなってしまいますから。自分の中にある役者としての可能性を見ていただくために頑張っていかないと。取材を受けるたびに大口をたたいて、自分でハードルあげてるんです(笑)。きっと本番を観てわかってもらえるものも絶対にあるはずだから、まずはみなさんに劇場へ足を運んでほしい。それが切実な願いですね」

(取材・文=立花もも 写真=冨永智子)

松田 凌

まつだ・りょう●1991年、兵庫県生まれ。俳優。2012年、初舞台ミュージカル『薄桜鬼』 斎藤一篇で主演を務める。舞台を中心に活動する一方、13年にドラマ『仮面ライダー鎧武/ガイム』(レギュラー)、16年は、映画『ライチ☆光クラブ』、ドラマ『ニーチェ先生』に出演。

 

『暗黒童話』書影

紙『暗黒童話』

乙一 集英社文庫 590円(税別)

傘で左目を抉られ失明し、記憶まで失った菜深。眼球移植で視力をとりもどすも、見知らぬ光景が左目にフラッシュバックするようになる。眼球提供者が死ぬ前に見たらしいその光景には、両手両足を切り落とされて監禁される少女の姿が映っていた。菜深は真相を突き止めようと提供者の住んでいた町へ向かうが……。

※松田 凌さんの本にまつわる詳しいエピソードはダ・ヴィンチ5月号の巻頭記事『あの人と本の話』を要チェック!

 

舞台『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

原作/東野圭吾 脚本・演出/成井 豊 出演/多田直人、松田 凌、鮎川太陽、川原和久 【東京】4月21日(木)~5月1日(日)Zeppブルーシアター六本木【大阪】5月6日(金)~8日(日)シアターBRAVA!
●敦也、翔太、幸平は同じ養護施設出身。ある夜、コソ泥を働いた彼らは、雑貨店だった廃屋に、夜が明けるまで身をひそめることに。そんな折、シャッターの郵便口に一通の手紙が投げ込まれる。かつて悩み相談を受けていたらしい店主のかわりに返事を書いた3人だったが……。
写真=西村 淳