読み飛ばしてOK! 本を読むのが遅い、読書が苦手と嘆く人のための読書術

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/15


『遅読家のための読書術』(印南敦史/ダイヤモンド社)

春といえば心機一転、何か新しいことを始めてみようという気持ちになるものだ。目標を立てて、例えばこれまであまりふれてこなかった「読書」を日課や趣味にしてみようという声もあるが、とはいえ、本を読むというのは慣れないとなかなか骨の折れるものでもある。

プロ書評家である印南敦史さんは、著書『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)の中で「本を読むのが遅い」となげく人びとに読書法を指南してくれている。今でこそ月60本以上もの書評をまとめる印南さんだが、自他ともに認める「遅読家」だという。それにもかかわらずなぜ、現在のペースを維持できているのか。本書から、ポイントを紹介していこう。

読み進めては数行前が気になり、また戻ってしまう……。だんだん繰り返していくうちに、本を読むこと自体が苦痛になってしまった経験もあるのではないだろうか。印南さんもかつては熟読しようと努めるがあまり、自分に嫌気がさしてきたというが、書評をまとめるうちにある答えにたどり着いた。

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それは、熟読を続けても「実際には忘れていることのほうが多い」ということだ。本を読み始めるとついつい、すべてを理解しなければと強迫観念にも似た気持ちにさいなまれるときもある。しかし、振り返ると実際に記憶に焼き付いているのは断片的であるほうが多い。裏を返せば、忘れていないものこそ「自分にとって大切な部分が凝縮されている」ということになる。

この考えをもとに、印南さんがすすめるのは「サーチ読書法」である。本の要点を見きわめつつ流し読みするという方法だが、細かなポイントがいくつかある。

読書の前に必要な選び方。まえがきと目次だけは熟読してみよう

ビジネス書や新書にはたいてい、まえがきがある。著者が執筆した動機、本のテーマや要点をまとめた導入部であるが、印南さんは、この部分を読めば手に取った本が「自分にとって必要か否か」がおおかた把握できるという。

それは、読者が「読みたい」「買いたい」と思うきっかけになると、出版社や著者が想定しているからだ。実際、アマゾンでまえがきを公開している書籍が多いのもそのためだが、万が一判断に迷ってしまったときは、本の設計図ともいえる「目次」を読もうと印南さんはすすめる。

自分に必要なキーワードを意識して「最初の5行」と「最後の5行」を読む

まえがきや目次から「自分にとって必要か否か」を判断したあとは、いよいよ読書になる。ここで大切なのは、一言一句すべてを正確に読み込むのではなく、自分自身の目的に合わせて本から「何かを得られればよい」と気楽に考えてみることだ。

書籍の構造は「章」「節」「項」の順番に細分化されるのが一般的である。目次を眺めて必要な部分を見きわめたら、読みたい箇所の「最初の5行」と「最後の5行」を読みすすめようと印南さんはすすめる。どの箇所を必要とするかは読者の目的や本の構造にもよるが、章や節、小見出しなど自分なりの単位を設定して追ってみる。より深く知りたい、自分にとって重要な情報であると判断した場合には、読み飛ばした部分をさらに掘り下げてみればよい。

ただ、何が重要であるか判断がつかないときもあるだろう。そんなときはネットのように「キーワード」を自分の中に設定しておくのがよいと、印南さんはいう。いうなれば本を読む動機や目的にも繋がるが、求めるキーワードを意識してみると、自然と関連する部分が浮かび上がってくる。購入したはよいものの本を開くまで気が重い、時間はないけど本を読みたいという人にとってはうってつけの方法である。

せっかく書いた文章が読み飛ばされるのは、ライターとして正直、ちょっぴり寂しさも募る。しかし、読書の主役は「読者である」と同書で語る印南さんの主張はまさしく本質である。大切なのは、読者のみなさんにとってほんのわずかでも心や記憶に残るものがあればよいということ。本とは、他者の知識や経験を伝えてくれるものでもあるが、読書は苦手だと決めつけずに、自分にとって意義のある1冊を手にとってみよう。

文=カネコシュウヘイ