キャリア計画は意味が無い? 悩める30代が充実したキャリアを築く方法、それは「無努力主義」!?

ビジネス

公開日:2016/4/13


『好きなようにしてください たった一つの「仕事」の原則』(楠木 建/ダイヤモンド社)

――自分はこのままでいいのか?
――本当にやりたいことは?
――この先のビジョンは?

 社会人になって約10年、30歳はキャリアの曲がり角。役職を持ち中堅として立ち回る人がいる一方で、転職をして新たな職場で邁進している人もいるだろう。中には起業して自分の城を築いている人もいるかもしれない。いずれにしても、30代を今後の方向性を決める重要な時期だと捉え、自分が進むべき道を悶々と考えながら日々仕事に打ち込んでいる人は多いのではないだろうか。

 ところが、そんな悩めるビジネスパーソンに対し、キャリア計画などあまり意味のないことだと言ってのける人がいる。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授の楠木建氏だ。

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 氏は「NewsPicks」という経済とビジネスの情報に特化したニュースキュレーション・サービスで、「楠木教授のキャリア相談」を連載する。「仕事で成功しても、女として負けですか?」「『プロ経営者』にどうすれば最短距離でなれますか?」「『器用貧乏』な自分が嫌。専門性が欲しい」「悩みらしい悩みはないが、『漠たる不安』が解消できない」「仕事が辛すぎて辞めたいが踏ん切りがつかない」等々、ユーザーからのさまざまな相談に氏はズバリ答える。「好きなようにしてください」と。すでにキャリアの第三コーナーを回ってしまったという氏は、ほとんどのことが思い通りにならなかったと自分の仕事生活を振り返り、それなら好きなことを好きなようにするのに若くはなし、と述べる。だから、この連載を一冊にまとめた著書のタイトルは、『好きなようにしてください たった一つの「仕事」の原則』(楠木 建/ダイヤモンド社)である。

 じゃあ相談者が一方的にグチをまき散らすだけなのかといえば、もちろんそんなことはない。バッサリと切り捨てた上で、相談内容に沿った自身の仕事論を展開する。例えば、地銀勤務の33歳男性からはこんな相談がある。

「『三三歳研修』なるものがおこなわれ、専門職として生きるか、それともラインの部課長を目指すゼネラリストを選ぶか、決める時期だと言われました。しかし、お恥ずかしい話、いまだに私はそのどちらかに自分の適性があるか、判断ができません」

 これに対して、やはり「好きなようにしてください」で始まるのだが、33歳で適性など決められないのだから、思い込みで決めてしまえ、というのが氏の回答だ。そうすると、続けているうちに選択がどうも間違っていたらしいと気付くこともあるだろう。そうして思い込みと修正を繰り返すうちに「自分の土俵を正しくとらえられるようになる」という。周囲がしっかりとした考えをもって先に進んでいるように見えると、あやふやで定まらない自分は情けなく感じるものだ。だが、「そんな自分もよし」と自分を許してやることができそうな気がする。

 さて、そんな氏には“仕事の原則10か条”がある。中でも、10か条目「『無努力主義』の原則」に「好きなようにしてください」の本質が表れている。つまり、本人が努力だと認識しているうちは質・量も持続性もたかが知れていて、空回りになるだけとのこと。客観的に見ると努力しているけれども、本人は対象が理屈抜きに好きで時間が経つのも忘れるほど集中してやっている状態になる。この「努力の娯楽化」が理想と豪語する。

 とかくじたばたとしてしまいがちな30代だが、ワクワクする方向へ向かうことがひとつの指針ということだろうか。海のものとも山のものともつかないけれど、気持ちの赴くままに進んだときその先に何が待ち受けているのか。そんなふうに考えると、それはそれで楽しみだと思えるかもしれない。

文=林らいみ