大森区+蒲田区=大田区、富士山の見えない富士見町……。『地名の楽しみ』には地名トリビア満載!
公開日:2016/4/15
「富士山が見える場所だから富士見町」「荻の茂った窪地だから荻窪」というように、地名には様々な意味が込められていて、その由来を聞くと「へぇ~」と感心してしまうものが多い。おなじみの地図研究家・今尾恵介の『地名の楽しみ(ちくまプリマー新書)』(筑摩書房)には、そんなトリビアが満載だ。たとえば、以下のようなもの。
●富士山が見えない場所にも富士見町はあり、富士山のすぐ近くに富士見町はない
「富士見」を名乗る地名は、北は北海道、南は長崎にまである。全国各地の「◯◯富士」と呼ばれる“ご当地富士”を見られる場所には、それにちなんで「富士見」の地名が生まれるケースがあるのだそう。一方で、富士山の直下もしくは山頂を行政区画に含む自治体は、どこでも富士山が目に入るせいか、富士見という町名がない!
●東村山市、東大阪市、東久留米市。それぞれ「東」のニュアンスが違う!
東村山市の東は「村山地方の東部」、東大阪市の東は「巨大都市・大阪の東隣」という意味。一方で東久留米市という市名は、市制施行の際に福岡県久留米市との重複を避けるために生まれたもの。よってその東は「福岡県久留米市より東に位置する久留米市」という意味だ。
●大森区+蒲田区=大田区など意外と多い合成地名。4村を2文字に縮める離れ業も!
蒲郡市(蒲形村+西郡 村)、稲沢市(稲葉村+小沢村)なども合成地名から生まれたもの。なお明治7年に水上、青木、折居、樋口の4村の合併で生まれた清哲村などは、水+青で「清」、折+口で「哲」を表現する離れ業を見せている。
上記は本書に出てくるトリビアのほんの一例だ。
なお、本書のトリビアは「へぇ~」と感心しただけで終わるものではない。たとえば 、地名の合成方式からは「和の精神」「みんなが平等に我慢する」という日本の国民性が見て取れる。「都市化の中で『新田』などの農村らしい地名は削除されることが増えた」「平成に入ってハイテク産業がもてはやされると『テクノ』の付く地名が増加」などの話からは、日本の歴史も見えてくる。著者がよく使う言葉の通り、「地名は『過去への道標』」なのだ。
また戦後の高度経済成長期には、イメージ優先のため、低湿地帯に「◯◯台」「◯◯ケ丘」という地名を付けるようなケースも増えたという。地名はそうやって複雑な要因が絡まって生まれるため、すべてが字義通りの地理的特徴があるとは限らない。そのため著者は東日本大震災後に増えた「この漢字が使われた地名は危ない地盤だ」というような安易な記事に警鐘を鳴らしている。みなさんも本書を読んで、楽しみながら“地名の教養”を身に付けてみてはいかがだろうか。
文=古澤誠一郎