ベイスターズ広報部に聞いてみた ファンの間でも話題になった『BALLPARK』の目的とは?
公開日:2016/4/23
早くも熱戦が繰り広げられているプロ野球。様々なニュースが日々、報じられているが、開幕前にファンの間で話題になった本がある。それは横浜DeNAベイスターズが発売した『BALLPARK』(ダイヤモンド社)。
いわゆるプロ野球の「球団オフィシャル本」の一つなのだが、選手のインタビューや球団の情報はほぼナシ。読んでみるとほとんどがメジャーリーグのスタジアムの写真が続く内容となっている。しかも、どこか野暮ったさを感じる野球本と違い、部屋に飾っていても絵になるような美しい写真、洗練されたデザインで仕上げられている。ベイスターズはいったい何を目的にこの本を出版したのだろうか?
その答えには、ベイスターズの球団としての方針、志向が深く関わっている。実はこの本、ベイスターズが目指す理想のスタジアムをビジュアルで伝えるという意図でつくられた一冊なのだ。
今年1月、ベイスターズは本拠地である横浜スタジアムの運営会社のTOB(株式公開買い付け)を成立。ベイスターズの持ち株比率は7割を超える結果となったが、これはスタジアムの改善やイベントなどをより球団がやりやすくなることにつながる。
やや余談だが、プロ野球チームは本拠地球場が(「実質的に」含め)自前か否かで経営・運営事情は大きく変わる。たとえば「ファンに楽しんでもらうために、あるいは集客のためにスタジアムをこう変えたい、こんなことをしたい」と球団が考えた場合、自前の球場であればスムーズに行うことができるが、自治体や他の会社が運営する球場となると、球団の一存ではできなかったり、迅速に対応できなかったりするのだ(ちなみに自前の球場でない場合、球場の飲食等の収入が球団に入らないケースもある)。それ故に、このTOBの成立は、ベイスターズにとって大きな意味を持つのである。
「日本の場合、TOBというと、どうしてもビジネスライクだったり、マイナスのイメージに聞こえがちです。しかし、今回のTOBは球団の黒字経営の道筋をつけるためでもありますが、それ以上に球団と球場が一体経営になることで、より魅力的なスタジアムを目指せることがメリット。その将来像をファンのみならず横浜市民のみなさんに見てもらいたい。それが『BALLPRAK』の刊行意図です」(横浜DeNAベイスターズ広報・PR部)
理想のスタジアムをビジュアルで伝える本をつくりたいという思いは以前よりあり、このTOBのタイミングがちょうどよかった、ということである。
「ベイスターズが球場を持ったらどうなるか、何を一番大切にするのかわかりやすく伝わると思います。我々にとっては、それを横浜のみなさんと実現するためのスタート、土台となる本ですね」
そんな熱い思いもあっため、写真はほぼすべて撮り下ろし。昨年、約3週間をかけていくつものメジャーリーグの球場を訪ね、撮影してきた。では、肝心の理想とはどういった姿なのだろう? それはコンテンツにわかりやすく表現されている。
まず「COLOR」「ENTERTAINMENT」「SEAT」「HISTORY」「BALL〝PARK〟」「FOOD」「GREEN」「BEYOND」「SOUND」「LANDSCAPE」という、魅力的なスタジアムに必要な要素をピックアップ。冒頭で理想が実現した横浜スタジアムの姿をCGで作成し、理想の実例としてメジャーリーグの球場の写真が続くという構成だ。
「メジャーの球場は、野球観戦がしやすい工夫があるのはもちろんですが、仲間と一つのテーブルで雑談できる場所がったり、いろいろなアトラクションがあったりと、『スタジアムという場所』を楽しむ要素もたくさんあります。なので、野球以外のことが目的のお客さんもいるんですよ。日本の球場ももっとそんな方向を目指してもいいと思います」
野球ではなく「場所」を楽しむために訪れたお客が、結果的にチームのファンになることもある。魅力的なスタジアムをつくることは、ファンの拡大にもつながるのだ。実は『BALLPARK』のテイストやデザインの方向性も、それと似た志向が影響している。
「球団やスタジアムのさらなる活性化には、ベイスターズファン以外、野球ファン以外にもいかに球団や球場の魅力を広めていけるか、壁を越える人へリーチできるかがポイント。そのためにも、極端な話、野球が好きな人以外も手に取れる本でなくてはいけない。それで、日本にも飾っていても美しいテーブルマガジン的な雑誌があってもいいなと考え、テイストやデザインの方向性が決まっていきました」
結果、よくある野球本とは一線を画す本ができたというわけである。
「『BALLPARK』で示したことを実現する第一歩として、まずスタジアムの色を統一していくことを既に始めています。ただ、我々としてはこの本で示したことが絶対とは考えていません。進める中でファンから異なる意見、違った提案があるかもしれない。この本は議論のきっかけにもなるんです。球場の変化もファンに楽しんでもらうというか、一種のファンとのコミュニケーションですね。そういったことも含め、横浜のみなさんの日常会話にベイスターズの話題が常に出てくるようになれれば、と思っているんですよ」
文=田澤健一郎