「性虐待」を伝えるということ 東 小雪×ヤマダカナン 対談(後編)

出産・子育て

公開日:2016/4/30

義父からの性虐待の記憶をコミックエッセイ『母になるのがおそろしい』に描いたヤマダカナンさん。同じく実父からの性虐待の記憶を持ち、パートナー・増原裕子さんとの共著『女どうしで子どもを産むことにしました』(すぎやま えみこ:漫画)を上梓したLGBTアクティビストの東小雪さん。日本では公に語ることがタブーとされる黒い影の記憶をさらけ出し、多くの女性たちの痛みを代弁してくれている2人が、あえて「書く」ことで見えてきたこととは? 全女性必読の特別対談をお届けします。

 

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子は親のエゴなのか

ヤマダ:前に「母性」と「父性」をテーマにした漫画にトライしたことがあるんです。色々調べましたが父性は「転んでもいいからやってみろ」みたいな感覚で、現実の生活では最初は私は父性が、夫は母性が強く、今はまた逆転してたり状況によって色々ですが…要は父性も母性も両方ないと子供はうまく育たないと本に書いてありました。

:「あなたは未熟だから」って石をよけてしまうタイプの親だと、子は「ずっとできない」ことになってしまう。「あなたはできる」ということを大事な人、多くは親機能の人から信じてもらえたら、その子は強いでしょうね。

ヤマダ:女性の場合、一般的には母性が強いものだし、そう考えると、小雪さんたちの場合は、むしろ意識して父性的な側面を出していかないといけないのかも…。

:うーん、どうでしょう…私は人間というのは両方持っていると思うので、「母性」「父性」ということはあんまり意識していませんね。私とパートナーはタイプがまったく違うから補いあえればいいのかな、とも思います。実際、精神面だけではなくて、たとえば家事にしても、仕事が忙しくても体調が悪くても、どっちも「当事者」としてイーブンに主体的にやるのが前提なんです。実際、そこは男女のパートナーシップよりも強みといえるかもしれません。

ヤマダ:精神的な結びつきは男女よりも強いのかもしれませんね。

:同性カップルは、婚姻を選択できない、子の共同親権が持てないなど、社会的に大変なことは当然あるから、家族としてしっかり2人でやっていこうという感覚ですね。結婚がない状態で「結婚」して、子供も「持てない」ところから「持とう」にいくのにもすごく話し合いが必要だし、2人とも努力し続けないといい家族の関係は続きませんから。

ヤマダ:男女って、なんとなくになっちゃう方も多いのかな。その延長で、なんとなく子供を産んでる人も実際にいると思うし。

:でも、それって大変だと思う。子育ては大変なことだから、そこをきちんと考えないままなんとなく進めてしまうと、しんどいのかなって思いますね。

ヤマダ:小雪さんの本に「こどもを産みたいのは親のエゴなんじゃないか?」と言われたというのがありましたよね。できちゃった婚とかは別にして、普通は「産もう」と思って産まれてくるわけだから、結局は親のエゴなんですよね。レズビアンだけじゃなく、男女の子供もみんな自分たちがほしいからつくる。

女どうしで子どもを産むことにしました

:「作りましょう」と思って基礎体温をはかったりするわけですもんね。エゴというと悪く聞こえますけど、子供を持ちたいと望んで妊娠出産に挑むという、積極的な意志がある点では同じですよね。レズビアンは確かにマイノリティですけど、ほかにもマイノリティの方はたくさんいるし、そういう人たちが子供を持つのはエゴだとすべてを否定してしまうのは悲しいことだと思います。

産んだって、産まなくたっていい

ヤマダ:私、小雪さんの本を読んで、たとえば保育園にママがふたりいる子がいたとしたら、そういう子を差別しない子に育てたいなって思いました。もしそういう子がいたら、私はその親御さんと友達になりたいです。

:都市部では少しずつ増えていて、日本経済新聞で「日本でもレズビアンマザーが増えている」という記事が取り上げられていましたね。去年の渋谷区のいわゆる「同性パートナーシップ条例」が施行されて以降、世間の意識が少しずつ変わってきたのもありますし、これからは「どうやって子どもを含めた家族になるのか」ということに関心が高まるのではないかと思います。

ヤマダ:小学生のときに読んだCLAMPさんの『20面相におねがい!!』が、男の子にお母さんがふたりいるって漫画だったんです。なぜ2人いるのかには触れていないし、レズビアンではないんだけど、その時に「不思議。でも、なんかいいなあ」と、家族の多様性みたいなものに気がついたんですよね。思春期にそういうのに触れるのは大事だと思うし、子供にも「いろんな人がいるんだ」っていう話をしていかないといけないと思っています。

:レズビアンである私たちは子供を持ちたいというと、レズビアンは誰もがそうだと考える方がいらっしゃるんですが、そうではなくて、レズビアンの中にも異性愛の女性と同じように子供が欲しい人もいれば欲しくない人もいるんですよ。最近、思うんですけど「産まない女性の権利」が尊重されていないですよね。校長先生が「女性は2人くらい産め」と言ったり、市長が成人式で「妊娠適齢期のあなたたちに期待します」と言ったことがニュースにもなっていましたが、社会の中には「産むのが正しい」といったようなプレッシャーがあると感じます。それでしんどくなってる人も多いと思うので、産む人も産まない人も尊重される社会が、子供を育てやすい社会になっていくんじゃないかと思います。

母になるのがおそろしい

ヤマダ:山口智子さんが雑誌のインタビューで「産まない選択」を話したら、「負け惜しみだ」みたいな声が寄せられてましたもんね。でも、子供を産んだ目線から言わせてもらえば、子供のない人生もアリだと思います。自分は子供がいなくても全然楽しかったし、楽しく生きていく自信もあります。もともと私の場合、夫が半々でやるという取り決めがなければ、絶対産んでなかったですから。

:ヤマダさんは、結婚の理由が「結婚観がすごくあう」ってことでしたもんね。

母になるのがおそろしい

ヤマダ:そうなんです。今も折半でやってはいるんですが、どうしても私のほうが比率が高くなってしまうんですよね。たとえば急に熱が出たとかいうときに迎えにいくのは絶対に私で、「なんで私が仕事を中断しなきゃいけないんだろう」ってなる。その中断されたイライラを子供にぶつけないようにする分、夫が標的になってすごく夫婦喧嘩が増えました。昔はこんなに仲がいいかってくらい仲良しだったんですけど、今は喧嘩ばかりです(笑)。でも、やっぱり男性の意識が変わらないと仕事を持つ女性が産もうと思うのは難しいですよね。

「性虐待」を伝えるということ

:私もヤマダさんも家族のこと、それも性虐待について書いたわけですけど、どうでしたか? 何か反響はありましたか?

ヤマダ:正直、いざ「出る」となったときになって、「どうしよう」ってグラグラ迷いましたし、正直、今でもその気持ちはありますね。あとがきにも書きましたけど、アートセラピーじゃないですが、自分で自分を助けるために書いた部分もあるし、いつか誰かの助けになればいいなと思います。

:編集者さんにもお聞きしたいんですけど、一般的なコミックエッセイって手に取りやすいイメージがあるので、こういうヘヴィな内容を描くのは難しくなかったのかな、と。特に性虐待というのはタブー感が強いですし。

編集M:真実というのが、根本的に一番強いと思っていますし、その意味ではコミックエッセイはノンフィクションのジャンルなのでアリなんです。ただ、批判が殺到する可能性もあるし、作家さんご自身が現体験を書くことで一番のダメージを受けてしまうことがあるので、こういう太いテーマで描いてくださる作家さんは貴重です。それでも描いていただくのは、待っている読者の方たちがいるからですね。自分に同じような経験があることがバレてしまうので「読みました」と言えない読者も多くいますし、さらに何年かたった後に「この本に救われた」って読者の方も必ず出てきますから。

ヤマダ:実はこの話をいつか普通のストーリー漫画で書きたいと思っていたんです。でも親からの性的虐待は漫画の世界ではありふれていてインパクトに欠ける。コミックエッセイではまだないので、誰かに届くんじゃないかというのはありますね。とはいえ、まだ本が出て1週間くらいなので誰かの力になっている実感はなくて、逆に批判しかきていません(笑)。小雪さんは批判とかなかったですか?

:そんなのいっぱいありますよ! でもね、確かに本当に必要な方はすぐにはコメントをなさらなかったり、できなかったりするので、肯定的な反応はなかなか届かないものですよ。『なかったことにしたくない』を出したのは2年前ですが、いまになって60代や70代の方から読者ハガキが届いたり、達筆なお手紙が届いたりしています。自分よりずっと人生の先輩にあたる方々が何十年も生きてきた中で「言えなかったこと、ヘンだと思っていたこと」について、私の本で「やっとわかった」と思ってもらえるというのは、すごく自分も動かされるし、書いてよかったと思いますね。

ヤマダ:やっぱり出版してすぐはそういった反応は得られないものなんでしょうね。

:1年くらいからですかね。講演の会場で声をかけられたりすることもあるんですが、その数は残念なことに少なくなくて、むしろとても多いんです。性虐待の被害者が多い現実についてわかっていたつもりですが、直接いろんな方から言われるとあらためてその多さに驚きますし、おそらく誰にも言えなくて苦しんでいる人も本当に多いのだと思います。だから活字とかコミックとか、いろんな形で表現して発信するのはすごく重要なことだと思います。

ヤマダ:そういう言葉が、いずれ私にもあるかもしれないと思えると、書いてよかったと思います(笑)。

:私もかつて「自分の親がすごくヘンで、自分だけがすごく悲劇」と思っていたけれど、そうではなかったことを知りました。そういうことを「知る」のも大事なんですよね。性虐待は大きな人権問題、社会問題のはずなのに、日本では語ってはいけないタブーになっているのはすごく残念なこと。こういう本を読むことで、性虐待は語ってもいいことであり、被害にあった方には「あなたは絶対に悪くない」ということを知ってほしい。負の連鎖を断ち切るのにすごく大事なことだと思いますね。

取材・文=荒井理恵

 

『母になるのがおそろしい』

ヤマダカナン KADOKAWA

「母のような母になるのがこわい…」そう気づいたのは、出産を意識した結婚3年目の春だった。そしてよみがえる、幼少時の暗い記憶…。男性依存の母をもち、義父からわいせつ行為を受け、苦しむ日々…。大人になっても影を落とす黒い記憶から解放されるまでを描く渾身のノンフィクションコミックエッセイ。ダ・ヴィンチニュース連載から新たに75ページを追加。

ダ・ヴィンチニュース集中連載はこちら!

『女どうしで子どもを産むことにしました』

東小雪、増原裕子、すぎやまえみこ(漫画) KADOKAWA

TDL挙式で注目を集めたレズビアンカップル、小雪とひろこ。家族になったふたりは、もうひとり(ふたり?)「新しい家族」を迎え入れることを決めました。わからないことだらけの、女どうしの妊活がスタート!しかしその道は、イバラだらけでありまして……。新しい家族のカタチをもとめる女ふたりの道程を描くコミックエッセイ。

ダ・ヴィンチニュース集中連載はこちら!