「女の嫉妬は恐ろしい」は平安時代から? 時代を経ても変わらない女性の性質
公開日:2016/5/5
源氏物語と言えば、知らない人はいないと言っても過言ではない程、有名な古典文学だ。この物語では、主人公・光源氏が様々な女性と男女の関係を結ぶが、その展開上実に多様な女性が登場する。彼女達の素性と性質を説明するだけで、物語の概要をある程度理解できるだろう。この女性達が持つ多様な性質は、現代の女性にも通ずるところがあるのだろうか? そんな視点で源氏物語を読むのが『女子大で『源氏物語』を読む 古典を自由に読む方法』(木村朗子/青土社)だ。女性の性質としては、恐ろしい面・魅力的な面など、さまざまな面が思い浮かぶだろう。そして、こういった女性の性質は源氏物語にも登場し、物語の重要な要素となっている。
例えば、女性の恐ろしい面である。女性の恐ろしさと言えば、嫉妬がその代表格だろう。源氏物語でも、女の嫉妬が冒頭から登場する。桐壺(光源氏の母親)が、この嫉妬の犠牲者である。桐壺は天皇に仕える女性であり、彼女は天皇に特別気に入られていた。その為、天皇に仕える他の女性達に嫉妬される事になる。何故なら桐壺の身分はあまり高いものではなく、宮中には彼女よりも高い身分の女性が大勢居た。それにもかかわらず、天皇は桐壺を寵愛する。つまり「どうして大した身分でもないあの女が天皇に気に入られているのか」となる訳だ。身分を能力に置き換えてみれば、現代でもありそうな話だろう。例えば「どうして大して仕事のできないあの女が、上司に気に入られているのか」などだ。ただし、仕事の能力とは違い、身分は自力ではどうしようもないのだから、その分桐壺に向けられた嫉妬は理不尽なものと言えるだろうか。そんな中、桐壺は光源氏を産み落とす。そしてそれから三年程経った時、桐壺は心労から重い病に罹り、それが原因で命を落としてしまう。ちなみに、彼女の心労は言うまでもなく周囲からの嫉妬と嫌がらせが原因である。ひと一人の生涯を終わらせたのだから、女の嫉妬はいやはや恐ろしいものだ。
また、源氏物語には夕顔という女性も登場する。彼女は、今で言うところの「かっこいい女性」だ。男性(光源氏)からアプローチされても、それになびかず、むしろ皮肉を混ぜた憎まれ口を返すような女性である。平安時代の男性は、このような女性を気が利いていると評し、好ましく評価したという。男性に自分を追わせる事が上手い、駆け引き上手な女性が魅力的とされた訳だ。現代でも、駆け引きが上手い女性はモテるイメージが強いというが、女性の魅力のポイントは時代を超えて不変という事だろう。
ちなみに、ここでは駆け引き上手な女性として紹介した夕顔だが、彼女は霊に取り憑かれて生涯を閉じるという壮絶な最期を迎えている。彼女に取り憑いたのは、彼女が住む土地に元から居た物の怪ではないかと本書では言われている。一般的には六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ) の生霊という説が有力視されているが、源氏物語の中で光源氏はこの物の怪を指して「荒れたりし所に住みけんもの」と言っており、生霊である事は明確に否定しているようだ。では、その物の怪が何故夕顔に取り憑いたのかというと……光源氏が、その物の怪が自分に恋をしてしまったからだと推測している。もしそれが正しいのなら、夕顔も桐壺同様に嫉妬の犠牲者という事になる。
嫉妬と一口に言っても、自分より優秀なものに向けるものと、自分が欲しい愛情を独占するものに向けるものの2種類あるが、今回紹介した桐壺と夕顔に向けられたものは後者である。女の嫉妬のイメージとして浮かびやすいのも後者だろう。時には相手の命をも脅かす女の嫉妬を、男性は恐ろしいと思うだろう。だが、桐壺の場合は天皇、夕顔の場合は光源氏といったように、そもそもは男性側が1人の女性に寵愛を向けた事が発端である。女性が嫉妬に狂う時、その原因は必ずしも女性側にのみある訳ではないという事を覚えておいてもいいかもしれない。
文=柚兎