なんということでしょう! ただのビフォーアフターと思ったら大間違い! 最後まで目が離せない町田康邸リフォーム騒動記
更新日:2017/11/15
2頭の大型犬と6匹の猫と熱海で暮らす作家、町田康氏。本書は、その自宅を大改造した話らしい。ふむふむ、作家の家のリフォームってどんな感じなんだろう。
そんな興味で読み始めたこの本、『リフォームの爆発』(町田 康/幻冬舎)。「リフォーム」が「爆発」するって、どういうこと?! この、およそ同時に使われることなどない、2つの言葉が組み合わさった不思議なタイトルの本、きっと普通のリフォームではすまないんだろうな…と、期待は高まる。
ところが、冒頭、いきなり岡崎真一という男の家の雨戸の話が展開される。え?これって小説なの?!さっそく、作家に煙に巻かれてしまう。
が、これは町田邸のリフォームの前ふり。描写からすると、元々、町田邸は中古の日本家屋であったと見受けられる。茶室まであるというから、古風な作家の住まいという佇まいか。傾斜地で、目の前には崖があり、その先は沢、その向こうは奥深い山という立地で、次のような重大な問題があったという。
●人と寝食を共にしたい居場所がない 二頭の大型犬の痛苦。
●人を怖がる猫六頭の住む茶室・物置小屋、連絡通路の傷みによる逃亡と倒壊の懸念。
●細長いダイニングキッチンで食事をする苦しみと悲しみ。
●ダイニングキッチンの寒さ及び暗さによる絶望と虚無。
これらの不具合を解消するため、町田氏は、実にさまざまな、現実的かつ不条理なリフォームについての思索をめぐらしていく。独特の時代がかった、時に落語のような軽妙な文章を読み進めていくうちに、どんどん町田康ワールドに取り込まれていく。
それにしても、実際に町田氏は、リフォームをするにあたって、かなり建築のことを勉強しているようで、けっこう詳しい。そして、「永久リフォーム論」「夢幻理論」「御の字やんけ理論」「夢幻ポイント因縁理論」なる独自の理論を展開していく。
本書の後半では、いよいよ実際の町田邸のリフォームに入る。ここで出てくる、リフォーム工事をする現場の人々との攻防が面白い。現場監督のU羅君、町田氏の想像に反して愛想のいい建具職人、決して目を合わせない五十半ばの小柄な大工など、個性的な職人たち。
なかでも、常に暴力的気配を発し続ける、2人の若い職人にビビる町田氏。町田氏といえば、ご存じの方も多いと思うが、かつては町田町蔵という名の眼光鋭いパンクロッカーだった。なのに、職人の若いにいちゃんたちに怯え、職人たちに出す茶菓に悩む姿は、微笑ましいというかなんというか…(笑)。
かくして、町田家のリフォームは、若干の新たな問題も残しつつ、無事に(?)完了し、先に挙げた問題点もすべて解決したように見えた。町田氏は、最後に訪れたクリーニング業者のスタッフたちの働きぶりに感心し、感動のフィナーレへ!
…と思ったらその後に、衝撃の展開が待ちうけていたのだ…。あとは、ぜひ本書を読んで確かめてほしい。
ちなみに本書は、雑誌『星星峡』(2012年10月号~2013年11月号)、『ポンツーン』(2014年1月号~2015年8月号)に連載された「文学的以前・以降」を大幅に加筆・修正し、改題されたもの。
町田氏の詳細な描写をもと に、自分なりにビフォーアフターの図面を描いてみた。が、どうしても細かい部分がわからない。願わくは、いずれオープンハウスにしてもらい、素敵なリフォームをしたお家の見学に行きたいものだ。
文=森野 薫