私たちの常識は通用しない!?  実際にあったトンデモ判決をご紹介

社会

公開日:2016/5/8


『裁判官・非常識な判決48選(幻冬舎新書)』(間川 清/幻冬舎)

 2009年に裁判員制度が導入され、以前よりは身近になった裁判。しかし、裁判員や他の形で裁判に関わったことのある方は、どのくらいいるだろうか。筆者自身も、裁判所に行ったのは社会科見学か修学旅行か…というレベル。正直なところ、よほど有名な事件でない限り、裁判や判決に強い興味を抱くことはあまりない。そもそも、裁判の仕組みも、きちんと理解できていないような気がする。

 そんな時、目に留まったのが『裁判官・非常識な判決48選(幻冬舎新書)』(間川 清/幻冬舎)。弁護士でもある著者が、48件の裁判について、判決内容や判決に至った理由を解説している。今回は、その一部をご紹介しよう。

 ドラマなどで時々見かける、“不倫カップルが宿泊先の宿帳に偽名や嘘の住所を記入する”というシーン。実はこれ、れっきとした犯罪だ。旅館業法という法律で規定されており、元々は食中毒や伝染病が発生した場合に、原因の究明などのために義務付けられたそうだ。本書で例に挙げられた被告人は、最終的な刑罰は比較的軽かったが、一度は60日間の拘留を言い渡されている。やましいことがあっても、宿帳に嘘の情報を記入するのはやめておこう。

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 宿帳の例など、ある意味自業自得では…と思うようなものもあるが、本書では許しがたい判決も多数紹介されている。例えば、“凶悪犯罪を起こしたのに覚せい剤を使用していたために無罪となった”ケース。覚せい剤を使用していた被告人が、わずか43分の間に運転していた車で次々と事故を起こし、さらに近くの自動車の運転手をナイフで脅し、手当たり次第に自動車を奪った、という事件だ。

 その結果、5件の交通事故を起こし、3人の被害者に最高で全治2ヶ月の傷害を負わせた。にもかかわらず、被告人は覚せい剤を使用して心神喪失状態であり、責任能力がないと判断され、執行猶予のある判決となってしまう。心神喪失が適用されるケースが少ないとはいえ、被害に遭った方の気持ちを考えると、なんともやりきれない結末だ。

 怒りを覚える非常識な判決がある一方で、呆れてしまうような判決も。“クラブのママが妻子ある男性と長年にわたり体の関係を持っており、男性の妻が精神的苦痛を理由に慰謝料を請求した”ケースだ。男性側が事実を認めたにもかかわらず、ママは“枕営業”を行っただけなので、慰謝料は発生しないという判決が下されたそう。

 枕営業は性欲処理の商売であるから、結婚生活の平和を害しないということらしいのだが、なんだか苦しい言い訳に思えてしまう。さらに裁判官は、「ホステスに枕営業をする人がいるのは公知の事実」とまで言及しているそうなのだが、これはホステスに対する偏見としか思えない。結局、訴えを起こした女性は控訴せず、これにて一件落着となってしまったようだ。この判決を読んだ時、「結局日本は男性社会なのか」と残念な気持ちになったが、訴えを起こした女性も同じように感じたのかもしれない。

 本書では、凶悪犯罪から、言いがかりじゃないの?と思うようなものまで、実に様々なケースが紹介されている。そして実際には、日本中でさらに多くの裁判が行われている。つまり、今まで裁判とは無縁の生活を送っていても、いつ自分に降りかかってくるか分からないということだ。万が一の時に痛い目に遭わないために、最低限の知識は必要だけれど、法律は難しくて…という方は、本書をきっかけにして、少しずつ知識を増やしてみてはどうだろうか。

文=松澤友子