オトコの征服欲を満たすために、オンナは演技をする――。ベッドの上で語られる“オンナの本音”
公開日:2016/5/15
性について語る時、男性はいくつになっても稚拙さが抜けないように思う。たとえば飲み会の場で語られる下ネタ話は、何歳になっても少年時代の延長線上にあるような内容だ。その一方で、女性が語る性というものは非常にリアルで、真に迫るものがある。それはある種の哲学のようなものすら感じさせるほどで、だからこそ、そんな“オンナの本音”に恐れを覚える男性は少なくない。
『はだかの林檎』(山崎紗也夏/日本文芸社)は、“ベッド100%の恋物語”と謳う通り、性にかんするオンナの本音をテーマにした作品だ。
主人公・沢村林檎は、34歳の独身OL。会社の部下である、7歳下の風間裕介とのセックスにハマっている。彼女にとって、風間は「玩具」。文字通り、自身を気持ちよくさせるための存在であり、主導権は彼女にある。そう、林檎は抱かれるのではなく、彼を、オトコを抱いているのだ。
特に体の相性が良かったわけじゃない。ただ…快感が欲しかっただけ…!主導権は私にある……!
そんな林檎にはセックスにおける持論がある。
セックスは――闘いである…!主導権はどちらにあるのか。その分岐点が――今!どっちが先に乳首を舐めるか!!
もしも自分の彼女が、セックスの最中にこのようなことを考えているとしたら。本書を読みながらどうしたもんかと考えてみたが、答えなんて出なかった……。
もちろん、セックスに勝ち負けなどないとは思う。どちらが攻める方に転じるかなんて、その時の気分やムードで決めればいいことだ。けれど、林檎にとっては闘い。プライドをかけたものなのだ。
ところが風間は、あっけなく「林檎さん、乳首舐めてもらえますか」と口にする。まるで林檎の心を読んでいるかのように。風間は、これまで林檎を通り過ぎていったオトコたちとは違う。だから戸惑ってしまう。
思えば私の体を通っていった男は…女をイカせることで征服欲を満たそうと激しく舐める男ばかり。オンナをイカせるのがオトコのプライド。だから女は演技する。けど、この男(風間)は違う…
林檎と風間は何度も体を重ねる。休日出勤、社員旅行、出張……。上司と部下である彼女らには、ふたりきりになるチャンスなど山のようにあるのだ。そのたびに林檎は風間を求め、風間もまた林檎に求められるがまま快楽を差し出す。
しかし、セックスだけでつながっていると思われるふたりの関係は、徐々に変わっていく。林檎に好意を抱いているイケメン実業家の出現。これにより、ギクシャクしだすふたり。けれど、各々が自分の本心に気づくのも、これがきっかけだった。
最終的に、林檎と風間は互いに本心をぶつけ合い、晴れて結ばれることとなる。そして林檎は、こう思うのだ。
カラダから入ることで真剣な恋から逃げた――。このままじゃダメだ。
セックスに上も下もない。お互いを求め、気持ち良ければテクニックなんて関係ない。背徳感なんて関係ない。心まで届いた相手とのセックスが、一番気持ちイイ。
本書で描かれる“オンナの本音”に面食らってしまう男性は多いだろう。けれど、恐れる必要なんてない。そこで描かれているのは、男女に共通する純粋な欲求そのものなのだから。一見すると、林檎の本音は、あけすけで強烈かもしれない。しかし、根底にあるのは、愛する人に愛されたいというだけのこと。そのためのコミュニケーションツールであるセックスと真摯に向き合う彼女は、誰よりもピュアな女性といっても過言ではないだろう。
文=五十嵐 大