最高の頭脳で最高におバカなことをするとこうなる!大人気理系コメディ『決してマネしないでください。』

マンガ

公開日:2016/5/19


『決してマネしないでください。(1) 』(蛇蔵/講談社)

 子供の頃、理科の実験に心を躍らせていたあなたももう立派な大人になった。当時は何にでも感動できた。何にでもドキドキしていた。もう一度思い出しませんか? あの頃の無邪気な自分を。「スタントマンが燃えても平気な理由を検証する」「ライターを火炎放射器にする」「フライドチキンで骨格標本を作る」これらの実験をばかばかしいと思いながらも興味がわいたあなたに、『決してマネしないでください。(1) 』(蛇蔵/講談社)を紹介したい。

「僕と貴女の収束性と総和可能性をiで解析しませんか?」このぶっ飛んだ愛の告白から始まる本作をざっくり説明すると、「男子校出身で女子への免疫が皆無な物理学オタク主人公の掛田理(かけださとし)は食堂の女性に恋をし、その行方を仲間たちが見守るラブコメ」という誰でも取っ付きやすいストーリー要素を付随してカモフラージュされた「むせるほど濃ゆい科学漫画」である。会話の随所にちりばめられた科学ジョークがとても面白く、文系の私でもわかりやすいように注釈もしっかりと入っている。おそらく理系出身の方はこの漫画の文章表現に共感できる箇所が多く、文系の私よりも更に楽しめるのではないかと思う。

 本作では科学史に名を残した偉人たちのマニアックすぎる逸話もコミカルに紹介されている。病原菌の存在に気付いて手洗いの重要性を訴え続けたが誰にも理解されなかったせいで精神を病んだ産科医のゼンメルヴァイス、解剖学に始まり「近代医学の祖」とも言われるマッドな死体泥棒ジョン・ハンター、交流電流を考案しエジソンすら嫉妬させた超天才の変人ニコラ・テスラ、彼らのほか数名が第1巻では面白い実験ネタと共にピックアップされている。中でも医者のジョン・ハンターの紹介はとてもぶっ飛んでおり、読んだ人は間違いなく彼に興味を抱くだろう。彼の偉業は現代医学の祖となっているが、その裏には本作のタイトルどおりの「絶対にマネしてはいけない」ことがずらりと並んでいる。とりあえずその一部を紹介しよう。

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・解剖用の死体が足りないので絞首刑になった死体や墓地の死体を盗む
・「こんな死体が欲しい」と兄・ウィリアムからリクエストされる度に都合よく条件に合う人が死亡
・臓器移植の可能性を追求し、ヤギに水牛のツノを移植
・2m50cmの巨人の遺体を手に入れるため、本人が死ぬまでストーカーを続けて棺から盗む

 文章だけでも彼の凄まじいイカレ具合を理解していただけると思うが、漫画でコミカルに描かれている本作を読めば更に彼に興味がわくだろう。このジョン・ハンターという人物は、その異常さと多大なる社会貢献の二面性から「ジキルとハイド」のモデルになったと言われている。また、彼は家の敷地内に大量の動物を飼っていた(解剖するため)ことからドクター・ドリトル(動物の声が聞ける医者の話)のモデルでもあったとも言われており、なんともネタの尽きない男だったようだ。

 基本的にマネしてはいけないことばかり紹介されている本作だが、至って真面目な科学実験や雑学ネタも多く紹介されている。例えば「8を意味する単語が入っているOctober はなぜ10月なのか」についてだが、これは実はとても古い歴史があり、一言では語れないくらい長い理由があったりする。詳しくは本作を読んでほしいのだが、もう一点注目してほしいのは巻末おまけ漫画と「マネしてもいい実験」の紹介コーナーだ。おまけ漫画は1巻で紹介されている偉人たちをバーに集めて話させるという内容であり、とても短いのだが偉人たちのキャラが面白いので是非目を通してほしい。そして「マネしてもいい実験」のコーナーでは「卵の黄身と白身を逆転させる実験」や「1秒で水やジュースを凍らせる実験」などが紹介されている。また、本作は全体で150ページほどの長さで文字数もさほど多くないのでとても読みやすい。大人になった今でも科学の面白さを改めて感じさせてくれる本作こそ、本当の意味での「理科の教科書」なのではないかと私は思う。

文=Nas