犯罪者が好む場所の共通点とは?
公開日:2016/5/20
「人を見かけで判断してはいけない」といいながら、「人を見たら泥棒と思え」という。不審者に注意して歩きましょうというが何に注意すればよいのかはわからない。犯罪者が住む近隣の住人に印象を尋ねれば「そんな人には見えなかった」とか「いい人そうだった」なんていう言葉が平気で出てくる。
安全な日本とはいえ、日々犯罪のニュースが流れる中で、曖昧な“不審者探し”で防犯を行う「犯罪原因論」ではなく、犯罪が起こりやすいと思われる“場所”を視点に危険を防ごうという「犯罪機会論」を推奨するのが、『見てすぐわかる犯罪地図 なぜ「あの場所」は犯罪を引き寄せるのか』(小宮信夫/青春出版社)だ。「犯罪原因を抱えた人がいても、その人の目の前に、犯罪の機会(チャンス)がなければ犯罪は実行されない」という考えのもと、「危ない人」ではなく「危ない場所」を見抜くための「景色読解力」を付ける必要性、力を身に付けるポイントを教えてくれる。
子供の頃、家族や先生から度々「知らない人に声をかけられてもついて行ってはだめよ」とか「不審な人がいたら近づかないように」と言われていた。当時の私 はそれに何の疑問も持たずに注意の言葉を心に刻み付けていたが、実際にどのくらいの親密度だと“知らない人”になるかはまったく理解していなかったと記憶している。名前、住所、電話番号を全て知っている人? いつも公園で顔を合わせている人? 今考えても明確になりえていない存在“不審な人”をイメージした人物をイラストにしろと言われたら私はこんな人を描くだろう。深く帽子をかぶり、サングラスにマスク姿をして電柱の陰からじっと見ている大人の男性。これに該当する姿・行動をしている方がいたらごめんなさい。これは間違いなく、私個人の偏見なのです。
しかし、“不審な人”かどうかという“人”に注目して犯罪を見極める「犯罪原因論」は、まさにこの“偏見”がなければ成り立たない手段。近年では過剰なまでの不審者情報に戸惑いの声も挙がっているようだ。たまたま夜道を女性と同じ方向に歩いていた男性が不審者として通報され、公園で遅くまで遊んでいた子供に早く帰るように注意した老人が極悪不審者と扱われる。障がい者やホームレスなど社会的弱者が不審者扱いを受けてしまうケースもあり、本来なら手を差し伸べるべき人間を意識的に避けて生きなければいけない悲しい社会となってしまったようだ。
疑心暗鬼の生活は嫌だと思っても誰でも信じて生きていけるほど甘くないのも十分承知している。一見“いい人”そうで“いい人”ではなかったということもあるのが人間だが、信じても裏切ることがないのが景色だ。「景色読解力」を付けることで疑わなくてもいい人を過剰に疑わずに生活できる。学校・トイレ・道路・公園などの公共の場所でどのように危ない場所を見抜けばよいのかという犯罪抑止の三要素を第二章でおさえた上で、第三章で「景色読解力」を身に付けていただきたい。過去の事件の現場写真や、犯罪機会論が常識である海外の街づくりの実例写真とともに解説されるさまざまなポイントを知ることで、単純ながら意外に無意識となってしまっていた危険事項に気付かされる。犯罪機会論による注意キーワードは、「入りやすい」「見えにくい」こと。この2つの条件を犯罪者は好むようだ。たとえば、植え込みが途切れた場所のある歩道、校門が開きっぱなしの学校、誰でも入れる男女兼用トイレなどはその一例。
防犯理論や実践方法の本というと難しく感じてしまう人でも、身近な話や、数字データによる明確な資料、イラストや写真を使用しながらの解説であるためとても読みやすい。序章でイラストを使った選択式のクイズがあり、何となく「ここは危ない」と思っていた場所が本当に危ない場所であるのか、危ない理由は何なのか、気軽に確認することができるのでスタートから気負いがなくなる。犯罪に遭ったときに危険を回避するクライシス管理より安全性が高い、初めから危険に遭わないようにするためのリスク管理や、防犯ブザーの思わぬ落とし穴、本当に使える地域安全マップの作り方、無意味にしない防犯パトロールの活用法など、興味深い内容が盛りだくさんだ。
大切なあの人や自分自身の身を守るために、小さな子供を持つご家族、女性、高齢者のみならず、“不審者”以外の全ての人にぜひ読んでおいていただきたいおすすめの1冊だ。
文=Chika Samon