グランプリに勝つことが目的化した「ゆるキャラ・B級グルメ」の地域PRは、儲からない失敗策か
公開日:2016/5/23
地方創生担当大臣が誕生したりふるさと納税制度ができたりと、政府も地方自治体も“まちおこし”に躍起だ。日本は複数の地方、多数の地域によって成り立っているが、現在、地方・地域は危機的状況。地域再生の成否には日本の未来がかかっている。
だが、本書『地域再生の失敗学』(飯田泰之、木下 斉、川崎一泰、入山章栄、林 直樹、熊谷俊人/光文社)は「地域再生の歴史は、失敗の歴史だったと言っても過言ではない」と問題提起する。これはいったいどういうことなのか。
“まちおこし”の代表といえばB級グルメ、ゆるキャラ、イベントの3つが思い浮かぶが、まちおこしの専門家である木下 斉氏によれば「そんなものは“まちおこし”ではない」という。B級グルメはいまや巨大イベントと化し、何十万人という来場者があるにもかかわらず、である。
「使ったお金に対してどんなリターンがあるかという発想が乏しい」と木下氏は指摘する。イベントのための設営や管理等に莫大な費用がかかるものの、定番メニューの焼きそばやホルモン関連商品 はせいぜい500~600円。しかも大量生産できるものではなく、それぞれ数百食売れたら終了。もはや儲かる構造ではないうえに、最近では完全にグランプリに勝つことが目的化した地域PRになってしまっているところが多く、持ち出しばかりになっているという。
飯田泰之氏は「まちおこし」は地域再生のための手段に過ぎず、地域再生のためには経済の再生が必要と述べている。必要なのは、「(地域で)いかにして稼ぐか、いかにして稼ぎを逃さないか」という視点。経済学者らしい氏の意見であるが、「入ってくるお金と出て行くお金をプロジェクト全体で評価するという、民間なら当然の視点がない」といわれれば、納得である。
このような見方をすれば、「B級グルメの優等生である富士宮焼きそばでさえ、地域再生の観点ではそこまでの成功例とはいいがたい」となる。なぜなら「原料の小麦もソースも、おそらく鉄板、ついでにガスも、ほとんど市内では作っていない」から。地域内でいったいどれだけお金がまわったかを考えると、いったい何のための事業なのか、となるのだ。
安易にイベントに頼るべきではないにしても、ではどうしたらよいのだろうか。
木下氏によれば、町の商店では量で大手スーパーにはかなわないうえに、昨今ではアマゾンや楽天などのECサイトもある。このような中では、「『高売上低粗利』ではなく、『低売上高粗利』で経営が成り立つ新たな産業集積を作るのが大切」という。そのためには売り手の工夫が必要で、例えば、「単なる物販ではなく、製造から販売までを手がけ、さらに提供方法も小売ではなく飲食店で『加工』する」などだ。
「稼げるビジネスが集積し、常に勢いのいいものに更新されていけば、そのエリアの人通りも増えていき、さらに周辺でも現状に合った面白いビジネスモデルの事業をする人がどんどん増えていく。そうやってまちを変えることができる」という。
上記は一例であるが、著者らの専門、経験とデータに基づいた地域再生への的確な提言が多数なされている。
本書は、気鋭の経済学者が、一線級の研究者、事業家、政治家たちと徹底議論し、今本当に地域再生に必要な「正しい考え方」を鋭く探り示したものだ。
行政に「稼ぐ」視点がないままに進められる地域再生プロジェクトも問題だが(しかも財源は税金)、人口減を前提条件としていない政策や事業への指摘が複数されている。人口減少に目をそむけることはできない、もはやほとんどの自治体で避けられない未来。だからどういう社会を選択していくのか、みんなが考えなければならない。
地域の、そして日本のこれからを考えるうえで読んでおきたい一冊である。
文=高橋輝実