「アラフォー」で「おひとりさま」の漫画家が、ある日突然難病に…。社会復帰するまでの道のり
公開日:2016/5/27
健康ってすばらしい! 普段はあまり思わないことかもしれないが、病気から回復した後などはそのありがたさを実感する。しかし軽い風邪ならそれで済むが、もしとんでもない重病に罹ってしまったら……? 特に最近、年齢の近しい有名人が相次いで亡くなっている現実に直面すると、実は他人事ではないということを思い知らされる。
死んでしまってはどうしようもないが、幸い社会復帰に成功した例もある。『ふいにたてなくなりました。おひとりさま漫画家、皮膚筋炎になる』(山田雨月/ぶんか社)は、10万人に数人の難病「皮膚筋炎」に罹ってしまった漫画家・山田雨月氏が自身の体験を綴ったコミックエッセイ。「アラフォー」「おひとりさま(独身)」と、作者を表すこのワードに共通項を感じた人には参考となる話もありそうだ。
「皮膚筋炎」とは膠原病の一種で、筋肉に炎症が起こり筋力が低下すると共に、特有の皮膚症状が起こる病気。作者は入浴時、体を数度こすっただけで腕に疲労感を覚えたあたりが前兆だったと回想する。そこから次第に起き上がりにくくなり、階段に上るのも困難になっていく。意を決して病院へ行ったところ「皮膚筋炎の疑いがある」と診断されたのだ。
まずは皮膚筋炎であるかどうか検査するために入院。同時に現在の症状を抑えるための投薬も行なわれる。皮膚筋炎は自己免疫疾患のひとつで、要は本来は外敵から身を守るための免疫が、機能不全により自身を攻撃してしまうということだ。そのため免疫を抑制する必要があるのだが、そうすると当然、他の病気に感染しやすくなる。さらに投薬されるのはプレドニゾロンというステロイド薬で、いわゆる副作用が存在するのだ。骨粗しょう症やムーンフェイス(顔が丸くなる「満月様顔貌」)などがそれで、対策のために苦心する山田氏の姿がコミカルに描かれているが、実際には相当な心労があったと推察される。
そして検査の結果、皮膚筋炎を確定する明確なものが出なかったという。この場合、特定疾患に認定されないこともあり、そうなると高額な薬などの費用が重くのしかかることになる。健康保険の「高額療養費制度」は利用できるが、治療が長期に亘ることを考えると相当な負担だ。幸い認定は下りたそうだが、こういう事態もありうるのだということは知っておいて損はない。
ところで「おひとりさま」の山田氏は入院の準備などをどうしていたのか。それは実家から親が手伝いに来てくれていたのだ。身の回りの世話から引越しの手続きまで、氏はずいぶん助けられたようである。しかしアラフォー世代の場合、人によっては親が亡くなっている場合もあろう。私の両親は健在だが、体調が思わしくないため作者のような助力は期待できない。なので近しい友人たちとの「助け合い同盟」みたいなものが必要かもしれないと思った。
現在、山田氏は無事退院し、なんと海外旅行にまで出かけられるほどに回復している。そのあとがきで心に残ったのが「そうか! 『がんばる』っていえるのは健康ってことなんだなあ」という一節。よくうつ病の人や被災地の人々に「頑張って」は禁句だといわれるが、その理由がここに集約されているような気がする。頑張ろうにも体調や環境が最悪だったらどうにもならない。体や心が健康であるからこそ、まっすぐにエールが受けられるのだ。「人の身になって考える」ことの大切さを思い知らされる。
本書はいち難病認定患者のエッセイだが、実は意外なほど参考にできる部分は多い。難病でなかったとしても結構な大病を患ったとして「自分だったらどうするか?」を考えるだけでも、立派な参考書として成立する。もしくは「こうならないようにしたい」という反面教師でもいい。いずれにせよ「アラフォー」で「おひとりさま」は少なからずリスクと隣り合わせなので、打てるだけの手は打っておくのが賢明だろう。
文=木谷誠