パナマ文書騒動のキーワード 「租税回避」「タックス・ヘイブン」とは? 税金逃れの実態に迫る

社会

公開日:2016/5/30


『〈税金逃れ〉の衝撃 国家を蝕む脱法者たち』(深見浩一郎/講談社)

 昨今たびたびニュースで目にするのが「パナマ文書」の存在だ。騒動の発端は昨年、ドイツの日刊紙『南ドイツ新聞』に匿名の人物からリークされた情報だった。国際的な金融取引を手がけるパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した書類には、世界各国の要人や著名人、資産家、企業の名前が連なり、本国での“租税回避”を示す記録が残されているという。

 しかし、報道では「世界的スキャンダル」「富裕層の脱税」などという扇情的な言葉が並ぶ印象もあり、問題の本質がいまいち見えない。そこで、パナマ文書騒動のキーワードといえる「タックス・ヘイブン」の存在などを解説した書籍『〈税金逃れ〉の衝撃 国家を蝕む脱法者たち』(深見浩一郎/講談社)の内容をもとに、今回のポイントを整理してみたい。

課税とは何か?  騒動の裏にある“租税回避”と経済のグローバル化

 そもそも課税とは、個人や法人が国や各自治体から強制的に金銭を徴収されることだ。一般市民からすれば、住民税や所得税、商品を購入した時に支払う消費税などが身近な例にあたる。

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 徴収される租税には本来「公正でなければならない」という原則があると本書はいう。現在、日本では所得や資産額に応じて支払うべき金額が変動する累進課税制度が設けられているが、「富める者は富めるなりに、貧しい者も貧しいなりに税を応分に負担する」というのが、公正の意味である。

 ただ、一方では「租税回避」と呼ばれる現実がある。今回のパナマ文書騒動でも取り上げられるキーワードであるが、所得や資産額を偽る「脱税」との違いは「合法」であることが本書では示されているが、その背景には「資本移動と経済のグローバル化」が密接に関係しているという。

 その根幹にあるのが「ルーカス・パラドックス」という経済のグローバル化の裏にある現象だ。かつては、資本が過剰な国から不足する国へと流れるのが一般的であったが、現在、貧困国向けの直接対外投資はおおむね「たった5%に過ぎない」と本書はいう。

 従来、多国籍企業は各国に配置した子会社ごとに独立した経営が求められていた。しかし、IT技術の進化に伴い、世界各国の事業拠点が繋がることで「中央集権的な事業拠点の遂行が可能になった」現在においては、本社とのやり取りが容易になり、結果として資本が「経済先進国内にとどまる」ことを実現できるようになったという。

多国籍企業における“タックス・ヘイブン”の意味と存在

 今回のパナマ文書騒動の裏には、IT技術の進化により、多国籍企業における資金移動が容易になったことも関係があるとみられる。では、騒動の重要なキーワードともなる“タックス・ヘイブン”とは何か。

 タックス・ヘイブンとは、英語で使われる「Tax(税)」と「haven(避難所あるいは港)」を掛け合わせた言葉だ。日本語では「租税回避地」とされるが、本書では資金の「最終目的地である時もあるにはあるが、単に通過地点でしかない」と前置きしながら「抽象的存在」であると解説している。

 実態がつかめない中でも「租税を回避し地下経済へ流れ込む資金量は年々増加の一途をたどっている」とされるが、今回の騒動でイメージされるような南の島ではなく、実際は多くが金融業を基幹産業とする「経済先進国」に向かっているのではないかと本書はみている。

 また、多国籍企業による租税回避のメカニズムは多様で、本書ではそのノウハウを提供するのは多くの場合「先進国の会計事務所、弁護士事務所」だと述べる。実行するのは「先進国の金融機関」で、時には、金融機関が主導して設立した世界各国の名義のみの「トンネル会社」を通して資金を通過させる。

 現状、多国籍企業の事業活動において、各事業拠点にどれほどの利益を落とすかは経営判断に委ねられているが、一方で、グループ会社の取り引きには税務上の規制を設ける「移転価格税制」が敷かれている。各グループ会社は第三者と同様の利益水準での取り引きが求められるが、タックス・ヘイブンを利用した租税回避については、日本国内でも税務当局と争われた事例もある。

 少子高齢化による社会保障費の増大もあり、日本でも税金についての話題が尽きない。現在のところ、個々の事例にもとづき解釈の分かれる“タックス・ヘイブン”の存在だが、パナマ文書騒動をきっかけに、今後の議論に拍車がかかる様相も呈している。

文=カネコシュウヘイ