癌予防にもなる? 「午後の紅茶」を手がけた著者が教える紅茶の楽しみ方。これを読めばあなたも「紅茶党」!!
公開日:2016/5/29
日本の飲食業界では、依然、コーヒーが主導権を握っている。「スタバ」「ドトール」などのカフェの影響はもちろんのこと、コンビニや「マック」でも美味しいカフェラテやコーヒーが買える時代だ。
しかし、生活に密着し、食と相性がいいのは紅茶ではないだろうか。そもそも、コーヒー派と紅茶派なら、紅茶が好きな人のほうが多くないだろうか。それなのに、紅茶の存在感はなんとなく薄い。
「紅茶党」の私は常々思っていた。「もっと多くの場所で紅茶が飲めるようになればいいのに!」と。
『紅茶の手帖(ポプラ新書)』(磯淵 猛/ポプラ社)は、紅茶好きを増やすべく、「紅茶がもっと好きになる」ことをテーマに掲げた新書である。著者は日本紅茶研究の第一人者。根っからの紅茶好きの磯淵氏が、紅茶の歴史、美味しい淹れ方、雑学などを熱い想いで語っている。
まず、意外と知られていない紅茶の美味しい淹れ方から説明しよう。
紅茶を美味しく淹れるコツは一つ、「酸素を多く含んだ熱湯を注ぐこと」だそうだ。つまり、お湯を沸かしている段階で紅茶の良し悪しが決まってしまうということ。お湯の最適な温度は95度~98度。見分け方は、目視と耳で判断する方法がある。90度に達すると、沸いている音がシューッという音からゴーッに変わる。そして、やかんで沸かしている場合、その内部に霧のような細かい泡が立ち始めるのが90度。93度になると泡が何本も立ち、中心近くにも立ってくる。95度では泡がさらに多くなり、表面は大きく波立ち、音がゴーッと大きくなる。
酸素が無くなってしまう99度以上では、お湯の表面の波は激しく崩れ、泡立ち方は「ゴボゴボ」。波打って飛び散るようになる。こうなる前に、火を止めなければならない。「ポイントは、熱湯が93度~95度になるタイミングをつかまえること」だ。
最適温度のお湯が準備できたら、茶葉を入れたティーポットにお湯を注ぐ。この際、ティーポットを温めておくといい。注ぎ方は「勢いよく」。ジャンピングを起こさせる必要がある。ジャンピングとは、茶葉の表面に付着した酸素の泡の浮力で、茶葉が上部に浮き、水分を含んだ重みでゆっくりと底に沈んでいく、その上下運動のことだ。ジャンピングが起こると、茶葉からカテキンやカフェインを効果的に抽出することができる。
ちなみに、ミルクティーにする際には、ティーカップには温めた牛乳を先にいれておき、後から紅茶を注いだほうが美味しくなる。日本では生乳と紅茶の組み合わせをロイヤルミルクティーと呼ぶが、これは和製英語。本場では「ティーウィズミルク」というそうだ。
紅茶を飲むメリットと言えば、「健康によい」ことが挙げられる。「コレステロールを下げる」「血糖値を下げる」「食中毒の防止」をはじめ、カテキンがリンパ球を活性化させることで、癌の細胞分裂を促す物質を抑えることができる。つまり「癌の予防」にもなるのだ。さらに、カテキンは万能だ。インフルエンザウィルスを不活性化して、死滅させる効力も持つ。健康的な飲み物として、再び紅茶は注目されている。
本書には、こういった実用的な情報の他に、紅茶好きなら知っておきたい雑学も満載である。誰しも名前を聞いたことがある「アールグレイ」。普通、紅茶は茶葉の名前で呼ばれるが、アールグレイは茶葉の種類の名称ではない。ベルガモットという香料で着香したフレーバードティーの一種なのだ。発祥は19世紀半ばのイギリスで、当時海軍大臣を務めていたグレイ伯爵が、中国に派遣した使節から中国紅茶をもらったことに始まる。その香りが気に入ったグレイ伯爵だったが、全く同じものを作ることはできず、地中海のシチリア島で作られていた柑橘類のベルガモットオイルを中国産の紅茶に着香した。そうして普及した紅茶を、グレイ伯爵の名を取り、「アール(伯爵の意味)・グレイ」と呼ぶようになったのだとか。
知れば知るほど、紅茶は奥深い。本書を片手に、アフタヌーンティーはいかがだろうか。
文=雨野裾