「心の距離は『ヲタクが思うほど遠くもない』」 でんぱ組.inc、Negicco…現役アイドルが「アイドルとヲタクの絆と距離感」を徹底考察
公開日:2016/5/28
戦国時代も遠い昔のように、今やさまざまなアイドルグループが名を連ね活躍し続ける昨今。メディアでもアイドルの話題が尽きないが、多くの場合、映像や写真で見るのはサイリウムの光に照らされ、ステージでキラキラと輝く彼女たちの姿だ。しかし、忘れてはならないのは、カメラの死角にはサイリウムの光で彼女たちの姿を照らし続けているファンもいるという事実だ。
アイドルファンは俗に“アイドルヲタク”とも呼ばれる。さらに略して“ドルヲタ”とも称されるが、アイドルとヲタクの関係は月と太陽である。
多くはステージを中心に、輝く存在と照らし続ける存在としての「絆」がある一方で、近づきたくても近づけない「距離感」があるというのは、互いの視点から徹底考察した書籍『アイドルとヲタク大研究読本』(ぺろりん先生/カンゼン)だ。
著者のぺろりん先生は、鹿目凛として自身も現役アイドルとして活躍する1人だ。フォロワー数6万人以上を誇るTwitter上ではアイドルとヲタク双方の本音を描くイラストレーターとしても活躍、絵本や連載も手がけている。
本書では、でんぱ組.incの古川未鈴やNegiccoのメンバー全員など7組へのインタビューやヲタク同士の徹底討論も交えて、軸となるテーマの「アイドルとヲタクの絆と距離感」を考察。さらに、ドルヲタには共感を、アイドルを知らない人たちにとっては関心をおぼえるような“あるあるネタ”もたくさん描かれている。
じつは、ドルヲタという言葉すらいまいちピンと来ない人には、その種類もさまざまに分類されるのはあまり知られていない。
本書ではその趣味嗜好を「属性」と定義しているが、例えば「DD」というものがある。これは「誰でも大好き」の略で、比較的アイドル全般が大好きで特定のグループやメンバーに限らず、多くはライブのこれまたドルヲタ用語である“現場”を複数行き来している場合に用いられる言葉だ。
昨今は複数のアイドルが合同ライブであるいわゆる“対バン”を行う機会も多々あり、人によってはふとした瞬間に特定のメンバー、つまり“推し”に巡り会うこともある。
これは本書で示される変化パターンの「ガチ恋単推し」になるということ。「運命の出会いを果たした末にたどりつく墓場」と解説されるが、思いが突っ走り始めると抑えたくても抑えきれない。時間や労力も費やし、目に見える中では「Twitterも推しのことしかつぶやかない」という状況になりうる。
本書ではアイドルの著者がアイドルへインタビューするという意外な試みもみられる。総括のインタビューではその経験から、アイドルは「“目標”と“感謝”と“一生懸命さ”がある」からこそ輝いて見える存在であり、感謝の先にあるヲタクと関係を「結局は人と人の絆なので、お互いがわかり合えていれば、じつは心の距離は『ヲタクが思うほど遠くもない』」と示していたのも強く印象に残る。
なお、最後にいちドルヲタでもある筆者にわずかながらのスペースを頂ければと願う。ちょうど本稿の執筆直前、その真意を問うことなく、乱暴に「アイドル」「ファン」「ヲタク」という言葉を用いる事件が報道された。詳細に言及することは避けるが、ごく一部のファンによる凶行を受けて、ともすればアイドルを取り巻く世界全体に“危うさ”があるとされるのは異論を唱えたいし、微力ながらの当事者としては寂しい。
一方はステージを照らしてくれる人たちのために、もう一方はステージを照らすために、互いに時間や労力を費やして、目の前の現実へ全身全霊をかけているという事実をどうか忘れないでほしい。本書を手に取れば、わずかでもその一端を感じ取れるはずである。
文=カネコシュウヘイ